本能寺の変とそれに続く十日間。
ドラマ、映画、小説で描き尽くされているかに思えましたが、この作品において大胆かつ斬新な解釈で描かれた秀吉、光秀、信長像は、私にとって実に新鮮で、心底驚かされました。
戦国武将たちがまるで目の前にいるかのような人間臭い描写は本当に上手いです!
ねねさんの冒険活劇的な活躍ぶりも凄いですが、多くの人に慕われ、かつ人の気持ちを掴むことの巧みなゴッドマザーぶりもしっかりと描かれ「本当に凄い人だったんだ」と感じさせられました。
「老い」が一つのテーマにもなっており、非情な部分もありますが、どこか救いと優しさがあり、読後感の爽やかな素晴らしい作品です。
歴史上の大事件でも、史料の残存状況からその全体像がよくつかめない事件があります。
また、有名な人物でも、時期によっては、どこで何をやっていたかよくわからないばあいがあります。
とくに、女性のばあいはそうです。
この物語の主人公、豊臣(羽柴)秀吉の妻ねねも、関連史料はよく残っているほうですが、やはりわからないところも多い。
この物語は、そのねねと、前田利家の妻まつ、それに信長の妻帰蝶が、本能寺の変のときに本能寺にいた、という想定で始まります。
ほかにも、本能寺の変での明智光秀の真のターゲットは何者だったのか、秀吉の「奇跡的」とも言われる「中国大返し」はなぜ可能だったのか、について、著者独自の解釈から迫ります。
また、現在から見れば勝敗は最初から決まっていたように見える山崎の戦いの展開を、戦場の目線で、それぞれの人物の心に寄り添って描くところも秀逸です。
史実をふまえつつ、想像力の翼を広げて描かれた本能寺の変と山崎合戦の物語。
信長にしても、反逆者の光秀にしても、また秀吉にしても、人間的な優しさを持ったキャラクターとして描かれているところも魅力です。
なお、今回の短編賞応募作『前夜』、『待庵』や、昨年の『輿乗の敵 新史 桶狭間』も、本作の関連作です。合わせてお読みになれば、この作品の味わいもさらに増すことと思います。
これはレビューを書くしかないって思わせる作品でした。
わたし自身、歴史好きを自認していて、ときどき自分でも書くのですが。
いやあ、参りました。
この作品を読んだあとで、歴史小説を書けません。
それほど素晴らしい作品です。
物語は戦国時代。
秀吉の中国大返し10日間の頃を取り上げています。
本能寺の変ののち、天下を左右した日々を題材に、武将や妻たちの動き、心理を、主に秀吉の妻「ねね」視点で描いています。
このねねが素敵です。自立した、どこまでもかっこいい女です。
後に北の政所と呼ばれ、この先、徳川家康が天下を取ったのちも、家康にも大事にされた「ねね」という女性。彼女が、どういう人物であったかが、納得できる描写です。
「ねね」が、こういう女性だったからこそ、後に淀君に溺れた秀吉が捨てることもせず、生涯、正室として大切にして、その上、頭があがらなかったという逸話が真実味をもちます。
「ねね」を見事に描いた四谷軒さまに大拍手を。
1話を読み始めると止まらないはずです。
ぜひ、お読みください。
歴史にあまり明るくない人でも、一度は触れるのが本能寺の変でしょうか。
未だに謎に包まれている襲撃事件、謀反を起こした明智光秀のその動機はさまざまな考察がされています。
今作品では、光秀がなぜ謀反を起こしたのか。その最大の謎が斬新とも呼べる視点で描かれています。
そして特筆すべきは、主人公が光秀でもなく秀吉でもなく、後に北政所と呼ばれる秀吉の妻ねね。
中国攻めの真っ只中にある秀吉と、長浜から京へと向かうねね。
ふたりの最大の敵は仇敵、明智光秀。
山崎にてぶつかる両者の戦い。
ストーリーはあくまで歴史上の出来事に沿った物語ですが、そこには様々な人の思いと信念がこれでもかというくらいに、重厚に、そして丁寧に描かれています。
結末を知っていても、何が起きるのだろうという高揚感を味わえるのが、筆者である四谷軒さまの筆力の強さでしょうか。
歴史好きの方はもちろんのこと、本能寺の変を新たな視点から楽しみたい方にもオススメできる作品です。
信長ー秀吉ー家康の系譜。
一番に素晴らしい、と思うのは、
武士が世の中を支配することを確固とさせたこと。
信長が、権威を突き崩し、大局を描き。
秀吉が、惣無事令を出して、武士を統一し、
家康が、その系譜が禁中並公家諸法度を出して、天皇家を抑えた。
色々有ったし、色々言われることはあるけど、この系譜が、平安の世を、平和を
日ノ本に生み出した。
平和、とははかないものである。戦争ではない、という状態の為だけに、騙しもするし脅しもする。
といったのは司馬遼太郎ですが、
それを’源平の争乱以来ようやく築いたのだから。
その視点からこの作品を見ると、この出来事は色々の中に、含まれる。
然し、
人が、人々が、足掻いて、藻掻いて、それでも手に入れたかったのは、
結局単純に、我が子の幸せ、なんだなぁと。
そして、それを安心して期待できるのが、彼らが築きたかった
平和、なんだと思う。
何度も大河ドラマのテーマになってきた「本能寺の変」に纏わる物語。その直後、ねねとまつが幾重の危機を乗り越えていく所からドラマが始まります。
ねねは賢く人情に厚い女性として知られていますが、この物語に描かれているねねは最上級に格好良い!どうしても戦国武将目線で描かれがちなテーマなのですが、ねねを主人公に描くと目から鱗がボロボロ剥がれていくのです。
かといって、奇想天外なことは一切起こりません。時代考証に基づいた、正統派の歴史小説です。
と言いつつも、私は歴史小説はあまり得意ではないんですよね。でも、こちらの作品はぐぐぐぐぐっと引き寄せられ読まずにはいられない存在になりました。難しい言い回しがなくて、テンポが良くて映像が目に浮んでくるのですよ。
大河ドラマになってほしい! と思わせる名作です。歴史小説が好きな方にも、そうで無い方にもお勧めです!
(改訂版)どうしても秀吉の中国大返しばかりに目がむくけれど、「本能寺の変」直後の各武将の生存戦略が面白いです。
光秀は天下ではなく「織田家」に対する「勝ち」を求めて、将棋でも指すように瞬時に計算して次々と冷酷に手を進めます。その様は『輿上の敵』の今川義元を彷彿させます。
一方で本能寺の変直後から「ねねとまつ」のバディが知恵と度胸で光秀の手を掻い潜り、京を駆け近江を駆けて、戦国武将や歴史上の人物とやり合って、自家のサバイバルと信長や帰蝶そして弥助の仇討ちに挑みます!
光秀とは対照的に、ねねはまず勘で行動して危険をかわしながら、行動中に時間をかけてじっくりと思考して最善手を導き出して光秀に対抗します。
真逆の二人が全てを懸けた名勝負を繰り広げます。
前作『前夜 ~敵は本能寺にあり~』と合わせて是非、実写版の長編ドラマで見てみたい大傑作です。