第16話 忘れ去られた記憶 part8

 あれからイザベラはフィリップ王子の身の回りの世話係となった。彼が言ったように毎日女の子が好まないような遊びに付き合わされていた。

休みの日は自由を与えられ、給料内ではあるが、服や好きな物も自由に帰るようになった。

休みの日を与えられ、好きな時間にゆっくり寝る事も

できるようになった。そんな当たり前のようなありふれた日常は奴隷だった頃に決して許され事なんて無かった。そんな自由を与えてくれた彼にいつからか

恋心を抱くようになった。いいや、おそらく初めて

声を掛けてくれて、彼を見た瞬間からなのだろうと今なら確信できる。

だけどイザベラはそんな恋心は決して叶う事なんてないとわかっていた。イザベラは元々奴隷で彼は王子様だ。その時点で既に不可能に等しい。だが、それだけではない。イザベラは彼には何年も前から密かに慕っている人がいると彼から聞いていた。彼は出会った時の表情を普段からしていて、初対面の時とまるで別人のようにガードが固く静かな時が多い。おかげで周りから近づき難い印象を持たれていた。

しかし、イザベラには何故か心を開いていて、2人の時はよく喋るのだ。そして、よく話に出てくるのは

彼の従姉妹レティシアという女の子である。

彼はレティシアの話をする時だけよく笑っていた。

凄く嬉しそうに何度も何度も繰り返しでその子の話を

していた。

ある日突然彼は、

彼の一目惚れだったとイザベラに話す。

それからというもの近付きたくて、その子がよく通る場所、来る時間を狙って、来るのを待って、平然を装い挨拶をする。しかし、目が合うと挙動不審になり、焦り、結局素っ気ない態度をとって、不安な目で見られると彼は悲しそうに話す。

それでも、まともに話せなくても、少し声を聞いて、

見れるだけでとても幸せだと彼が話す。

でも、その子の隣にいつもいる従兄弟のイーサンがたまに羨ましくて、一度でもいいから、あの子の隣にいたいと

彼は悲しそうに呟く。

だから、イザベラはその願いを叶えてあげたいと強く思うようになった。こんな悲しそうで羨ましそうな顔じゃなくて、彼には毎日幸せそうに笑ってほしいか

ら。

そんな悩みにふけていた、ある日赤いフードを被ってた人物が彼女に話しかけた。顔はフードに隠れていて全く見えない、男の声だが男にしては小柄だった。自分より少し高いくらいだ。男は未来を知っていると話す。男はイザベラの夢を男の言う通りにすれば叶うと言う。

男はフィリップ王子は近いうちに留学という名の人質として帝国へ出向かう事になる。そうなった時にすべき事を男は教えてくれてそのまま姿を消した。

正直イザベラは信じていなかった。

あれから月日が流れて、男が言っていた事が現実となった。王子は潔く受け入れると男が言った事も本当だった。理由はここを離れれば、もしかしたらあの子へ

の気持ちは変わるかもしれないと話す。あの子との恋は絶対に叶わないからとも言う。何故なら、あの子は同じく従兄弟であるイーサンと今はまだ公の場には知られていないが既に決まっているからだ。


イザベラは困惑した、フードを被っていた男の予言通りだったのだ。でも、どうするこのまま何もしなかったら彼は遠くへ行ってしまう。行かせてしまったらなんだかもう二度と会えない気がした。

だから男の指示した事を実行した。


彼が発つ前日の夜、彼が眠る前に飲む紅茶に眠り薬を混ぜ、眠りについたのを確認し、彼を縛り上げ、目隠しをして、男が教えてくれた地下へ閉じ込めた。

彼の字を真似て怖気付き、失踪したと見せかけた手紙を彼のテーブルに置く。

翌日彼が突然失踪した事により、王宮内は大騒ぎとなった。またもや男の言う通りになった。

彼の話によく出ていた男、イーサンがフィリップ王子の替え玉として帝国へ行く事となった。


イザベラはフィリップを解放して、行ってほしくなくて誘拐したと話した。彼はイザベラにこの事を絶対口外するなと命令した。王宮に戻った彼は一か月の謹慎処分と受けた。


イザベラは次に言われた事を実行した。

帝国に手紙を出し、密告したのだ。

帝国にイーサンが王子ではない事がバレて、

怒った皇帝は彼を拷問にかけ、処刑した。


フィリップ王子は国王に呼ばれた。

彼は国王の手によって殴られて、国王は家臣に

止められるまで彼を殴り続けていた。

お前の所為で、お前が従兄弟を殺したのだと責め立てた。それでも彼は事実を口にする事は無かった。

無抵抗に父に殴られたのだった。


彼はあれからイザベラと距離を置くようになったもののあの出来事の引き金となった彼女を一切責めがなかった。


イザベラはそれでもいいと思った。

近くに居られるならなんでもいいと思った。


イザベラは感謝をしていた。彼の側に今いられているのは赤いフードを被っていたあの男のおかげだ。

これからもあの男の言う通りにしていれば

もしかしたらどんな形であれフィリップの近く、

誰よりも近くへといつか居られるのではと夢を見るようになった。

イザベラは男がまた現れるのを待ったが現れ事がなかった。


あれから一月も経ってない頃だった。

どういう訳か彼は彼女(レティシア)と一緒に居るようになった。町へ出かけるようになった。

彼女が彼をフィリップお兄様と呼ぶほどしたくなった。

婚約者が亡くなって間もないというのまるで誰もいなくなってなくて、楽しそうに笑っている彼女をイザベラは怒りの眼差しを込めて、睨む。だがそれだけではない。イザベラは彼が愛おしそう見つめるレティシアが羨ましく思っていたのだ。そして、だんだんと

イザベラの心に欲が芽生え始めたのだった。


イザベラの前にまた男が現れた。

ある情報を教えてくれた。

反乱を企んでいる人々が戦力になれる人を

集めている。それの首謀者である国王の兄レイモンド•ステュアードに会い、そこに加われと男は命令した。膨大な魔力を持っていればレイモンドはイザベラを拒まないと男は言う。男は自分の力をイザベラに分け与えた。イザベラは全てを導いてくれている男を主様と呼んだ。


全て順調だった。


だが反乱が決行される10日前の知らせによって

イザベラの全てが崩れ落ちた。

それはフィリップ王子の知らせであった。

反乱決行日

絶望していたイザベラの前に男はまた現れた。

反乱の首謀者であるレイモンドがフィリップ王子を

殺したと教えてくれた。

また、彼を殺し、生贄として必ず必要となるレティシアを男の元へと連れて行く事。レティシアを必ず無傷で連れてくるようにイザベラに命令する

そうすればフィリップ王子を生き返らせると男は約束したのだった。


「これが真実です」イザベラは不敵に笑う


その場にいる全員は凍りついた。

絶望感に満ちていたレイモンドの顔

見てイザベラは嬉しそうに笑っていた。


「どうです?息子を殺した女にまんまと騙されて

 殺される感想は?」イザベラは聞く


「貴様、レイモンド様から離れろ!

 攻撃しろ!」


国王軍将軍が言い放ち、一斉に彼女に攻撃魔法を放ったが彼女はそれを一瞬にして無力化し、天井の上に無数の鋭い氷柱を作り上げ、彼等に放った。彼等の頭や体中に突き刺さり、間もなく全員動かなかった。

イザベラによってその場にいた国王軍は全滅したのだった。





 

 




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