第15話 忘れ去られた記憶 part7

 女の子は生まれた時から奴隷だった。

 昼夜問わず働かされていた。


ある日、の主人は女の子を見るなり、いやらしい

笑みを浮かべながら、部下に指示をした。


「おい!その子にちゃんと飯を食わせろ

 成長したら間違いなく良い女になる。

 その時が来たら俺がうーんと可愛がってやる」


それから女の子は空腹に苦しむ事が無くなったものの

同じ奴隷の人達からは差別を受けるようになった。

どれだけ嫌がらせを受けても彼女はただただ黙っていた。その行動が彼等を余計苛立たせた。次第に暴力を振るわれようになった。

週に一度女の子を見る為に主人は足を運んでいた。

だから、女の子は目に見えないお腹や背中に殴られ、蹴られるなどの暴力を毎日のように受けていた。


そんな地獄の様な日常がこれからも続くと思うと

女の子は絶望した。


大人の女性になったら何10倍も年上の主人に

首輪をはめられ、性奴隷として迎えられ、飽きられたら、捨てられる。

既に決まっていたこれから先の人生に目の光が次第に失っていった。

既に決まっていた暗闇に溢れていた人生は些細な事で一時的光に包まれた人生へと変わった。


9才になった女の子は道の端に腰を掛けて、物乞いをしていた。1人の男の子が目の前やってきて女の子を見下ろし失礼な事を聞いてきた。


「その死んだような目って演技?」


女の子は男の子を見上げた。

身なりは自分違い整っていた。

綺麗な顔は何処となく不機嫌で眉に皺を寄せていた。

それでもとても綺麗な顔だと女の子は思った。

男の子は答えを待っているかのように黙って女の子を見下ろし続けていた。

だから、女の子は恐る恐る答える。


「ご、ごめんなさい。考え事をしているとそういう顔になります。」と答えた


男の子の眉の皺が更に増えた。


「何を考えたら毎日ああいう目になるんだ?」


その質問に対して女の子は目を見開き驚く。


「えっ?」


「実は俺には体が弱くてずっと屋敷にいる従姉妹がいるんだ。その子が俺と同じ目をしている物乞いの子がいるって言っていたんだ。探していたら、君を見つけたんだ。それでここ最近君を観察をしていたんだ。そこで俺は君までには目は死んでないと思ったんだ。」


どうしょうもない理由でずっと女の子を観察するとは

さすがお金持ちの頭はお花畑ですねと心の中で言う


「そ、そうだったんですか、、、気付かなかった、」

 と猫被って言う


「そりゃあ、心ここに在らずだから当たり前だ」

と馬鹿にしたように男の子は言う


女の子はイラッとした。また猫被る


「ご、ごめんなさい」


「どうして俺に謝るんだ?」

いちいちこまけーなあと女の子は思う


「な、なんとなくです」


「君面白いね」

男の子は目を細めて笑った


こっちは全然面白くねーよーと女の子は心の中で答える


「約2週間観察してたけどまるで機械だったよ?」


ずっと心を込めて笑えっか!?それこ機械だ!

こっちの身にもなれよ、昼夜問わず働かされてるんだぞ?お前みたいなガキだったらとうにぶっ倒れとるわ!


「仕事ですから」謙虚に答える


「まだ子供なのに?君、俺と同い年だろう?」

イラッ。子供全員お前みたいな子供だと思うなよ?

このクソガキが!同い年だからってなんだと言うんだ!年齢なんてかんけーねんだよ!もう黙れ

と心の中で思う


「生きるためです」


「親は?」


まともな親がいたらこんなところにおらんわい!


「いません」


「大変だな。俺はこうやって自由に遊び回ってるのに不公平だね、」


大変だと思うなら金を渡さんかい!こっちはノルマってもんがあって、達成したら帰れるんだわい!


「私は貴方と違いますから

 貴方は今まで苦労なんかした事はないでしょう?」


私我慢だ、我慢だぞー


「うん!無いね!」即答で言われた。

ブチっ


女の子は目の前にいる男の子と話せば話すほど怒りが込み上げてくるのである。

それでも平然を装い口を開く。


「今仕事中ですのでそろそろ離れてください」

そろそろ堪忍袋が切れそうなので

お願いだから帰って


男の子は楽しそうに笑う。


「嫌だね!俺暇だから相手しろ」


く、クソガキが!!


「いい加減にしてください」

男の子を睨む


それでも男の子は離れる気が全くなくて

ヘラヘラと笑っていた。

女の子は頭に思った事をついに口に出してしまった


「私は貴方みたいな能天気に生きてるクソガキは大っ嫌いです。好きな服着れて、好きな食べ物を食べれて、いつでも好きな時に寝れて、何処までも自由なクソガキはみんな、みんな大っ嫌い!」


「ちゃんと口に出して怒れるじゃないか」と

何故か褒められた。


女の子は正直自分に驚いてた。

こんな口に出して怒ったのは生まれて初めてだった


この後女の子は男の子の言葉に更に驚く。


「俺と一緒に来ない?完全に自由を与えられないけど、少なくともここよりは自由にはなれるよ?

俺と沢山遊んで、休みの日は好きな服を着て、好きな食べ物も好きな時間に食べれるよ?そんな普通の事ならあげられるよ?俺が君に人間らしい事を教えてあげる。だから、一緒に行こう?」


男の子は笑顔で女の子に手を差し伸べる


今まで見た中で誰よりもその男の子が眩しく見えた。


女の子は差し伸べられた手を掴んだ。


かつて奴隷だった名も無き女の子はその後

クソガキと言った男の子がこの国の王子、

フィリップ王子様だと知ったのである。


そして、

フィリップ王子は名も無き女の子にイザベラという

名を与えた。







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