第8話 2人、七夕に再び出会う。
〖結花〗
「はぁーーー」
気が重い。
今日は、7月7日。七夕だ。
毎年思う。
『この日が来なければいいのに』
と。
今朝は、あの世界の終わりのような夢を見なかったと思いたいが、気分はいつも通り悪い。
だから記憶はなくても、夢を見たということがよく分かる。
いつも私は目覚まし用のアラームをかけない。
鳴る前に目が夢で覚めてしまうから。
そんな中でも私は、重くあまり気分が良いとは言えない体をベッドから起こし、いつも通り学校に行く準備をする。
さらにいつも通り階段を降り、誰もいないリビングに入る。テーブルにお母さんが準備してくれておいた、まだ暖かい朝食を取る。
これを、食べると
『暗い気持ちじゃ、心配させちゃうから頑張んなきゃ』って思う。
本当に、お母さんがいてよかった。
そう、改めて思う。
そんなことを思っていると、そろそろ家を出ないと遅刻してしまう時刻になっていることに気付いてしまった。
はぁー。
今日だけは学校休みたい。
そんな自分の願望を胸に抱きながら私は炎天下の中、学校への道を走っていた。
気分が悪いのに。
毎年そうだったけど、、、。
そういえば何故か毎年、七夕の日には体調が悪い。
なんでだろう?
1日中そんなことを学校で考えていた。
もちろん、授業の内容なんて全く入ってこない。
家に帰ってからまた勉強しないと。
でも、なんか気が乗らないなー。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
7月7日。
時刻は午後11時45分。
もう少しで、日付が変わる頃。
「う゛、、あ゛、、」
ひとつの呻き声が暗いためか物寂しく感じられる部屋の中に響いた。
「はぁ、はぁ、、、」
そして1人、結花は目を覚ました。
いつもは、こんなに早く目が覚めないし苦しくもないはずなのにと。
しかし、結花はなんとなく理由を悟っていた。
〖七夕〗だからだ。
毎年、七夕はあの夢を見る。
必ず。
しかも、場面や出来事はいつも見るものと同じはずなのに目が覚めたとき、何故か体が震えている。
それは、苦しさから来るものでも、辛さから来るものでもない。
恐怖心から来るのだ。
そう。結花は、何か分からない、何かに怯えていた。
結花自身、何に怯えているのか分からない。
ただ、自分のよりも大きくて、大きくて抗えないような未知の力に無理矢理、押さえ込まれてしまって、身動きが取れず息ができない感覚があるのみである。
情緒不安定。
これが、結花の現状だ。
誰かに助けを呼びたい位、辛くて怖くて自分が壊れてしまいそうなのに、助けを呼ぶのは駄目だと自分を制止させてしまう。きっと、この部屋の闇もその原因だろう。
もう一度、寝よう。
そう思ってもなかなか寝れずに、ベッドの中で何度も寝返りを打つ。
部屋の空気は非常に重く息が詰まりそうだ。
だから、結花はベッドから鉛のように重い自分の体を起こし、窓を開けた。
そこからは夏とは思えない涼しく爽やかな風が暗い部屋の中に流れ込んでくる。
空には満天の星空が浮かんでいる。
この時、結花には窓の外が部屋の中とは比べ物にならない程、素晴らしい異世界のように感じられた。
だから結花は、その異世界に行くために部屋を出るとこにしたのだ。
いつも見慣れているはずなのに、暗くていつもより長いように感じる階段を降りてリビングの前を通り、玄関の前まで来る。
この時、結花に迷いはなかった。
こんな時間に外に出ていたら警察に補導されるのでは?とか、両親が起きて自分が居なかったら心配させちゃうとか、そんな迷いは無かったのだ。
ただただ吸い寄せられるように結花は、外へ出た。
そこからは、何処に行けばいいのか結花にはなんとなく分かっていた。
途中から何処を歩いているか結花にも分からなくなった。
しかし、足が動くのだ。
ひたすらに、足が止まらず歩いていく。
歩いていく道は全て裏道で大通りを通らない。
なので、人には全く会わない。
無音で結花は、まるで自分だけが世界に取り残されてしまったようにまで感じた。
街灯もないし、住宅にも電気がついていないため明かりは星々とつい2、3日前から満ち始めた月の仄かな柔らかいもののみだった。
大体、歩き続けて30分した頃だろうか。
目の前に、なんとも重厚で歴史を感じさせる社が立っていた。
結花は、この神社のことを知らない。
しかし、彼女はこの神社こそが私のことを導いていたのだと悟ったような気がした。
とりあえず、境内に入ってみよう。
そう思い結花は暗闇の中でも美しい朱色が際立っている鳥居をくぐった。
当たり前だか境内は静寂に包まれていた。
自然と心が落ち着く。
さっきまでの、情緒不安定は何処に行ったのやら。
周りに住宅が転々と在るが、神社を囲むように木々が立ち並んでいるため、光という光がそれらに遮られ入ってこない。
しかしそこは、闇の巣窟というよりはプラネタリウムと比喩した方が良いくらいに綺麗な星々が空に輝いていた。
もう少しだけここに居よう。
結花は、社の屋根の下にある古びたベンチに腰を下ろす。
そういえば、パジャマのまま来ちゃったなー。
そんなくだらない事を頭の片隅の方で考えながら結花は目の前にある東の方の星空を見上げていた。
「あれがベガで織姫。あっちがアルタイルで彦星。かぁー」
結花は数年前、理科で教わったことを思い出す。
確かベガとアルタイルは光の速さで15年分離れていると教えてもらった記憶がある。
昔は、そんな距離、七夕の1日だけじゃ行き帰りも出来ないじゃないか。と思っていたが、、、。
「光の速さで15年分だと私だったら諦めるわ~」
そろそろ首が痛くなってきたので正面を向こうとした時。
「確かに七夕の日だからって2つの星が特別、近付くわけではありません。だから昔の人は、たらいに水を張ってそれに2つの星を映し、水をかき混ぜて2つの星の光をひとつにしてあげたそうですよ。」
何処からそんな豆知識が出ているんだ?という疑問が驚きよりも先に出てきた、結花が正面を向くと年が同じぐらいの男子が立っていた。
結花は、ずっと暗い外に居たため目が暗闇に慣れている。
だから、その男子の容姿はすぐにどんなものか分かった。
しかし、容姿を頭で理解した時は心臓が止まったかと思ったくらいに驚きの波が結花に押し寄せた。
「、、ぇ?!、、黒髪に、、へ、碧眼!?」
そんな結花の驚きのために発せられた声など聞こえなかったように、
「昔の人ながら、なかなかロマンチックだと思いませんか?」
と言い、正面にある整った顔にある透き通る様な青い瞳がこちらを見て弧をうっている。
「まぁ。確かにね。ってそんなことじゃない!」
と、結い花が突っ込む。
結花自身、現在何が起こっているのか理解出来ていないし、したくもない。
目の前には、あの丘星清理が居たのだ。
結花も1度しか、しかも7日前に見ただけだったため確信が持てない。
だから、聞いてみた。
「丘星清理さん、デスヨネ?転校シテキタ、、、」
変に緊張して、文末が片言になる。
「えぇ。そうですよ。って僕の事知ってるってことは学校の方ですか?」
「はい。同じ、、、クラ、いや、学年の織川結花といいます。登校初日に色々あったとか。噂になってますよ」
なんとか結花は平常心を保とうと努力する。同じクラスであることを明かそうとも悩んだが、あまりか関わりたくなかった結花はそう告げた。
しかし、この拷問もいつまで体が持つだろうか。
「丘星さんは、なぜこんなところに?」
社交辞令のように顔には、心にもない笑みを浮かべて清理に結花は疑問を述べた。
「眠れなくって、ちょっとぶらぶらしてたんですよ。高校生だともう大人と体格が大して変わらないから補導されにくいし。織川さんもですか?」
「はい、あまり眠れなくて。」
そんな他愛ないのかよく分からないが、相当な問題発言をしまくっている会話をしていると、
「そろそろ、帰った方が良さそうですよ?もう2時だ」
「え?!本当ですか!?やばっ!帰んなきゃ、じゃぁ、さよなら」
星空を見ていたのと予想外の出来事にあったせいで時間なんて忘れていた。
結花は、暗闇に慣れた目を頼りに神社の出口に向かって走った。
「え?ちょっ、待って!うそ、、」
一方、清理は何が起こったか理解できておらず、間抜けな声を出し、結花に向けて手こそ伸ばしているが呆然とたたずんでいた。
しかし、結花はそんな清理のことなんか露知らず、家に向かって走っていた。現在地は分からなくても、本能的に何処を通れば帰れるか分かっているような気がしたのだ。
そして彼女は、家についてから気がつくのだ。
『丘星清理に近付いたのに体調が悪くならなかったと』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
完全に結花が清理の視界から消えてから、さらに1分。
「あぁ、やっと会えた。俺の愛しい愛しい奥さん、、」
やっと、清理が確かな平常心を取り戻した。と思われた。
が、、、
「あー、もう。可愛い!!
なんで俺、あんな塩対応しちゃったんだ!?もう!」
結花のことはもう転校初日から知っている。さらに言えばもっと前からだ。
「あ゛ー!もう!なんで敬語なんだよー!」
こんな、ギャップのある叫びをクラスメイトが知ったら、どう思うのだろうか。
「俺の妻、尊いー!」
星空を見上げている姿は本当に目を奪われた。
女神かよ?!いやそうだけど。
そんな叫びが、とある神社に
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
これが2人の
〖第1章☆完〗
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