第3話 彦星、学校での立ち位置を手に入れる。

時は、結花が教室を出ていく頃まで遡る。


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本当に、大丈夫だろうか。

(体がふらついてる。支えてあげたいのに)

そう思いながらも、俺は彼女が教室をでて見えなくなるまでを目で追った。



「じゃあ、改めて自己紹介をしてもらってもいいか?先生が先にクラスの奴らに名前とかは事前に伝えてるから、その他の事を詳しく話してくれると助かる」

新しい担任-鶴木先生がそう言って俺に話をふった。


少しふっくらした体型だからか人懐っこい先生だな、と思いながら


「はい」

俺は、先生に好印象を持ってもらうべく、ニコニコと顔に軽い笑みを張り付けて、返事をした。

すると先生は、俺が緊張していないことに安心したのか、用事があるからと急いで教室を出ていった。


先生を、しっかりと見送った後、俺は自己紹介を始めた。

「僕は、丘星清理といいます。ってこれは、先生から聞いてますよね」

そう言って俺は、一息ついた。


すると、女子からはまたもや、黄色の悲鳴。男子からは、最初よりいっそう顔から嫌悪の匂いをかもし出している。

人間、単純なものだな。

(だが少し、良い子ぶりすぎたか?)


そんなことを思ってると、3人の少し、否、かなりチャラチャラした男子生徒達が

「一人称がぼくちゃんってかー?」

「どこのぼっちゃんだー?」

「いやー。平和ボケしちゃってて大丈夫?」

と、冗談で俺を煽ってくる。

この学校、大丈夫だろうか。


(めんどくせー。)


「じゃあ、一人称を[俺]にすればいいですか?」

そう俺が問いかけると、


「はぁ?俺らに、無駄口を叩く気かぁ?」

ん?

おいおい、大丈夫か?

この学校、出来立てでそれなりに偏差値高めの私立高校じゃなかったのか?

そんな疑問が、頭の中を駆け巡っていると

「教育がなってねぇな!俺らが教育をイチからやり直させてやるよ!」

何か気に触ったのだろうか、急に先程のチャラい3人が、立ち上がり、俺の前まで来た。


と思った瞬間、俺は胸ぐらをその中の1番体格がいい男子生徒(ここでは、チャラい奴その1としよう)に掴まれた。


「「「「キャー」」」」

今度は、黄色の悲鳴ではなく、まともな悲鳴が女子達から上がった。


さぁ。どうしようか。

まぁ忠告はしておいてやるか。


「いいんですか?ここでこんなことして。先生達にばれたら大変ですよ?」

あえて、優等生として堂々と忠告してやろう。

(最近、体動かしてないからストレス溜まってるんだよなー)


「あぁ?そんなこと言ってられんの今のウチだぞ?」

「まだまだ、余裕あんのか?」

チャラい奴その2とその3の威勢もいい。


時計を見ると、

8時25分。

ホームルームが終わる時間が近づいてきた。


そろそろ終わらせるとするか。


「そろそろ、離してくれませんか?」

と一応聞くが、


「んなことするわけねーだろ!」

とチャラい奴その1は余裕満々な顔で言ってくる。


仕方ない。

この出来たばかりの私立高校で事を荒立てるのは心苦しいが、

やるか。

そう思い、俺は胸ぐらを掴んでいるチャラい奴その1手首を普通は曲がらない方向へ少し曲げてみた。

「っ!?痛ってーな!」

チャラい奴その1は、一瞬ひるんだものの空いている方の腕で殴りかかってくる。


(これで、条件は満たした。)


これを狙っていたのだ。


俺は殴りかかってきた方の手を両手で掴み、背負い投げをした。

もちろん、しっかりと落とす場所は配慮して何もない安全な床に落としてやった。

一瞬の出来事だったが非常に気分がいい。


あれ?)


教室内は一瞬、なんとも形容しがたい空気が流れたが、

次の瞬間、女子と

さっきまで俺に対して嫌悪感をこれでもかというだけ出していた男子達(チャラい奴その1、その2、その3を除いた男子達)の歓声が教室内に、いや、学校内に響いたのだった。

残りのチャラい奴その2とその3は、驚いて腰を抜かしていた。

ちなみに、チャラい奴その1は、ずっと床で伸びている。


威勢が言い割には、弱かったな。


(やはり、常人相手では面白くもなんともないな)


だが、教室内の反応を見ると分かるがどうやらこのチャラい奴らは教室内で面倒な奴らだったらしい。


(よし、これで教室内での俺の立場が確立された。)


8時30分。

ホームルーム終了の時刻である。

なんとか、終わりにすることが出来た。

終了のチャイムが鳴り終わると、歓声を聞き付けて帰ってきたのだろう。鶴木先生が血相を変えて教室に戻ってきた。

「何があったんですか!?」

先生は教室に入り、教室内を見回して、声を上る。


そこから、俺は面倒なことに先生達に事情聴取された。

しかし、先生達は

『何でやったんだ?』

と聞きながらも、顔は晴れやかだった。

この先生たちの態度はどんなもんだろうと思ったが、心の中で苦笑するしかない。

俺も、

『急に、殴りかかってきて、ビックリして、中学の体育で習った背負い投げを思い出して、自分の事を守ろうとしただけです』

そうニコニコとした笑顔で答える。

どうやら、先生達にとっても、奴らは、面倒な存在だったらしい。


喜んでもらえたのなら、よかった。

これで、先生達にも好印象でこの学校での生活を始められそうだ。



あとは、彼女だ。

無理に思い出させるのは、彼女の負担になる。

まずは、距離を縮めて、、、。

ってまずは、彼女と同じ教室に居られるようにしないとな。


今回だけは、頼み込むしかないかな、、、。ホームルーム時の事はまた、後でということになった。




1時限目は、

丁度、鶴木の授業だったため、さっきのホームルームで、結局出来なかった自己紹介をした。


「改めまして、俺は丘星清理といいます。

目の色のせいでハーフと間違われやすいですが、父も母も日本人で、黒髪に、黒い目です。

他県から引っ越してきて、あまりここら辺の、地理にまだ詳しくないので、教えてくれると嬉しいです。

これからよろしくお願いします」


先程、教室に入って来た時とは教室内の雰囲気が雲泥の差だ。

皆が俺を歓迎している。


その中で、俺は少しでも彼女に近づくための、様々な行動パターンを頭の中でシュミレーションしていた。

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