マリー・テレーズはその真実に何を思ったか

絶対王政を瓦解させたフランス革命は現在でも、肯定的な評価がまま先に立つこともありますが、反面、有名無実の裁判による死刑判決や内ゲバ闘争による政治の遅滞など、その血生臭さとともに混乱と無秩序、背徳のるつぼでもありました。
その背徳の最たるものの一つが、マリー・アントワネットの息子、ルイ十七世へ施された仕打ちでしょう。
そして、本作物語を動機づけたマリー・テレーズもまた、弟ルイと同じく、タンプル棟に捕らわれた一人。じめじめと黴臭く不衛生な牢獄で、彼女は同じく虜となっている弟をどれほど想ったことでしょう。
この世のあらゆる背徳を背負わされたルイは死に、マリー・テレーズは生きて牢獄を出て、叔父であるルイ十八世と共に、両親を救うことのなかったフランスを安堵する道を選びます。

しかし、どうしても明かさなければならない真実がひとつだけありました。
何が、弟のルイを殺したのか。
本作のマリー・テレーズは歴史と同様の女傑です。なにせ、彼女が席を蹴ってまでして同席を拒んだ仇敵、ジョセフ・フーシェとの邂逅を許したのだから。ひとえに、弟の死の真相を知るために。
そうして明かされて信実は、一体彼女に何をもたらしたでしょう。

本作は極上のミステリーです。その人物しか真犯人に該当し得ないその言葉が明かされた件は、ゾクゾクと身震いを覚えることは必死。そして、かそけに語られるルイの描写に涙することも。
そしてまた、タレイランとフーシェという驚天動地のコンビネーション、一つの言動で重しを据えるかの皇帝、そして語り手はシャトーブリアン、と読みごたえは充分。結末の情景が温かくも少し物悲しい。

長々と歴史のアウトラインに言及してしまいましたが、これは稚拙に語るよりまず読んでいただきたい。これが歴史の事実であったのだろうかと思わされることは間違いないでしょう。

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