第7話問題のあるヒロインズが動き出す

問題を抱えている人間は何処にでもいる。

と言うよりも何も問題を抱えていない人間など何処にいるのだろうか。

今まさに僕の後ろを歩く神童ノアにも問題はある。

彼女の抱えている問題は僕の恋人である君美とは非常に相性が悪い。

だから僕に恋人がいるという事実はひた隠しにしたいところだ。

「それでぇ〜鏡先輩は彼女いるんですかぁ〜?」

ついに僕にもこの質問が飛んでくることになる。

「いないよ」

神童のこの問いかけにはこう答えるのが最適解である。

「嘘吐いてますよね?」

急に隣までやってきて僕の顔を覗き込んでくる神童に軽く微笑む。

「嘘なんて言ってない。社内での僕のモテなさ加減知ってるだろ?」

「それはそうですけどぉ〜それにも理由はあるじゃないですか〜」

「何のことかわからないな」

「とぼけちゃってぇ〜早く課長のものになってくれたら私だって本気になれるんですけどねぇ〜」

「………」

そう、神童ノアの抱えている問題とは略奪愛にしか興味がないということ。

それ以外で恋をしたことがない。

それ故に彼女は社内でも数多くの問題を起こしてきた。

男性社員に質問をして恋人がいることを知ると急激にアタックを掛ける。

略奪が成功すると飽きてしまうのかすぐに捨てる。

それを繰り返した結果、彼女と同じチームに配属される男性社員は身持ちの固い既婚者で統一された。

妻のいる相手には手を出さないというモラルを守っているような神童は罰せられることもなく今までどうにかやり過ごしている。

しかしながら今回は色々と問題がある。

君美から僕を略奪しようものなら彼女だって黙っていないだろう。

ヤンデレ風味な彼女がそんな事をされたらと想像しただけで寒気が収まらなかった。

それに課長のこともある…。

それについてはこれから説明しようと思う…。


会社に着くとデスクに向かう。

「鏡くん。おはようございます」

全身から気品が溢れているその女性が課長である九条栞くじょうしおりだ。

彼女は我社の会長の孫であり社長の娘でもある。

「おはようございます」

挨拶を交わすとデスクにカバンを置いた。

「任せていた案件はどうなっていますか?」

「順調です。問題ないかと」

「確認したいので私のデスクに来てもらってもいいですか?」

「はい…」

彼女の為だけに用意されている部屋に向かうと僕らはふたりきりの状態になる。

「どうなっているんですか?」

九条は少しだけ険しい表情を浮かべると僕を問い詰める。

「どうもなっていないかと」

そんな逃げの言葉を口にするのだが彼女は逃してなどくれない。

「何故、私以外の女性と食事になんて行くんですか?それに…モデルの女性とお付き合いされているのですか?」

何処で知り得たのか九条は僕のプライベートの事情を把握していた。

「課長には答えられません」

「どうしてですか?」

「プライベートなことなので」

そう答えることしか僕にはできない。

「私では不満ですか?」

少しだけ悲しそうな表情を浮かべる彼女に申し訳ない思いに駆られてしまう。

「そういうわけでは…」

「ではどうして?」

懇願してくるような九条の表情を目にして僕の良心は痛む。

「………」

そこで言葉に詰まると僕はこれ以上の答えを口にすることはできずに居た。

理由は簡単である。

僕と九条では何もかもが釣り合っていない。

分不相応な相手ということ。

それはここに居る全社員に言えることだ。

入社してすぐにお達しが下される。

「九条栞に深く関わろうとするな。お前たちには分不相応である」

もちろん社長直々の言葉であるし祖父である会長の言葉でもあるのだろう。

僕らもクビになりたくないのでその言葉に従っている。

だがしかし、何故かはわからないが九条栞に気に入られてしまった僕は現状に困っている。

彼女は美しいし心根も優しい。

そんな彼女をのらりくらりとやり過ごし、どうにか拒否をしないといけないのだ。

「申し訳ございません。仕事に戻ってもいいですか…」

上司に対しての言葉ではないのだがここから逃げないとならない。

きっと今も何処かで監視の目は僕に集まっているはずだ。

「仕方ありませんね。では命令です。女性関係をリセットしておいてください」

「………」

それに返事をすることはできずに軽く会釈をすると僕はデスクに戻る。

課長に気に入られている僕がもしも彼女と付き合ったとしたら…。

神童はそんな事情もお構いなく略奪しようとするだろう。

そうなったら僕も神童も無事では済まないはずだ。

クビになるぐらいで済めば御の字。

それ以上があるとしたら…。

だがこれはもしもの話であり、ありえないIFの話なはずだ。

だから僕はそれには悩まずにまずは任されている案件を進めるのであった。


「どうすれば鏡くんは私のものになってくれるのかな…無理矢理っていうのは私の趣味じゃないし。でも命令に従ってくれるとも思えないな…どうしよう…」


「やっぱり鏡先輩に恋人はいるみたいだし〜本気出してみようかな〜」


「鏡さんとなら上手くやっていけそうかな…」


「流さん…本当にモテるんですね…嫌になるな…」


それぞれ問題を抱えた女性たちはここから本格的に動き出そうとしているのであった。

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