第4話ストーカーされる原因になった女性
いつもどおりの目覚め。
だけど昨日とは何処か違う自分の心境。
偶然が重なったとは言え昨日、僕には恋人ができた。
身支度を整えて駅に向かうと電車に乗り込む。
会社の最寄駅の大きな駅で降車すると誰かに後ろから肩を掴まれる。
振り返ると…そこには見覚えのない女性がいて眉根を寄せた。
「何でしょうか…」
おずおずと問いかけると彼女は深く頭を下げて感謝を告げてくる。
「この間は本当にありがとうございました!おかげで助かりました!」
何の感謝なのか分からずにいると彼女は当時のことを振り返るように口を開く。
「ほら!電車内で痴漢されていた時に助けてくれたじゃないですか!あの一件があってしばらく電車に乗れなかったんですけど…流石にいつまでも仕事は休めませんからね」
彼女の言葉を耳にして点と点が繋がり線になる。
彼女を助けた所を君美は見ていた。
あの時の女性だと過去を思い出す。
「あぁ〜そうでしたか…当然のことをしたまでで…余り記憶に残っていませんでした。申し訳ないです」
「いえいえ!私ははっきりと覚えていたので声を掛けたかったんですが…電車内だったので控えていたんです。それでですね!今度お礼も兼ねて食事でもどうですか?」
「えっと…」
そこで言葉に詰まった僕に彼女は名刺を差し出してくる。
「必ず連絡してください!今日は急ぐのでここで!」
彼女はそのまま駅のホームを抜けていく。
僕も会社に向けて歩き出すと本日の業務に従事するのであった。
昼休み。
朝に出会った女性の名刺に手に取るとその企業名を見て驚く。
「めっちゃエリートだ…」
そんな感想が口から漏れ出るとスマホに連絡先を入力する。
「えっと…
彼女に連絡するためにメッセージを送るとすぐに返事が来る。
「鏡さんって言うんですね!よろしくおねがいします!」
昼食を取りながら適当にやり取りを繰り返すと彼女は朝の続きの会話をしだす。
「それで!いつなら空いていますか!?出来れば早くにでもお礼がしたいです!」
積極的にも思える中道の態度に少しだけ頬が緩むのだが…。
(これって…大丈夫なのかな…キミちゃんに言ったほうが良いのか…?)
そんなことを軽く思考するが別に下心もないので報告する必要性は感じなかった。
だがもしも、これがきっかけで君美と別れるようになるのは少しだけ勿体ない気がしてならなかった。
「キミちゃんが僕をストーカーするようになった原因の女性と今朝偶然出会ったんだ。連絡先を交換して今度食事に行こうって話になっているんだけど…」
一応、君美に連絡を入れると彼女は直ぐに返事を寄越した。
「だめ。絶対ダメ。相手の女性は流さんに気があると思うから」
「そんな事ないと思うけど?単純にお礼がしたいだけみたいだし」
「絶対そんなことない。良いと思ってない男性と食事になんか行かない。それが例え痴漢から助けてもらった人だとしても」
「そうなのかな?でももう食事に行く流れになってるんだけど…」
「じゃあ私も行く。それなら良い」
「え?」
「そういうことだから。私も仕事に戻るからまた後で」
君美はそこで一方的にメッセージを終了させてしまう。
仕方なく中道に恋人同伴でもいいかと尋ねると彼女は了承の返事をしてくれる。
「全然いいですよ!彼女も心配なんでしょうね!鏡さんが素晴らしい男性だから!もし良ければ今日の仕事終わりに連絡もらってもいいですか?お礼は早くしろって両親に言われているので!」
それに了承の返事をすると中道に助けられた気分になり昼食を手早く済ませて午後の仕事に戻るのであった。
仕事が終わると中道に連絡を入れる。
それと同時に君美にも連絡をした。
「ごめん。今日は無理。中々抜け出せそうにないから…仕方ないから行ってきてもいいよ…」
「え?でもさっきは嫌だって言ってなかった?」
「だって仕事があるし…それに相手の女性には恋人がいるって遠回しに伝えたんでしょ?それならギリ許す…」
君美の許可を得ると僕は中道の指定した飲食店に向けて歩き出すのであった。
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