第5話ストーカー健在

中道に指定された店先に到着して僕は息を呑む。

あまりにも豪華な外観を目にして言葉を失ってしまう。

「ここで合ってるよな…」

もう一度スマホのリンクを確認すると中道に連絡を入れる。

「多分ですけど店先に着きました…」

中道はすぐに既読を付けると店内に入るように促してくる。

それに従って店内に入ると中道の姿を探した。

「ご予約のお客様ですか?」

店内のウエイターに声を掛けられてたじろいでいるとそれを見ていた中道が席で手を上げていた。

「中道様のお連れ様でしたか。どうぞ。こちらへ」

ウエイターに誘導されて中道の待つ席まで向かうと席に腰掛ける。

「コース料理を頼んでおきましたが好きに召し上がって行ってくださいね」

上手に言葉が出てこずに頷くだけしか出来ないでいると中道はクスッと微笑む。

「そんなに緊張しなくても…ただの食事ですよ」

それに何とも言えずに店内を見渡していると中道は再び微笑む。

「案外可愛らしい人なんですね♡恋人さんが羨ましいです♡」

お世辞のような言葉にハニカムと所在なげにテーブルの上のグラスを口に運ぶ。

「ふふふっ♡乾杯はしてくれないんですか?」

グラスの中身は白ワインだったようで僕は慌ててグラスを彼女の方に向ける。

「それでは。あの日、助けてくれたことに感謝します。乾杯」

中道はキレイに微笑むとグラスを口元に運ぶ。

「そんなに緊張しないでください♡普通のレストランですよ♡」

それでも緊張は収まること無くグラスの中身を一気に煽ると中道は優しい笑みを浮かべていた。

「ホントに可愛いですね♡助けてもらったからバイアス掛かっているんでしょうけど…タイプかもしれないです…♡」

中道のその言葉が耳に届くと不思議と緊張が少しずつ緩和されていく。

「えっと…ごめんなさい。こんな豪華なレストランに入ったこと無くて…」

「大丈夫ですよ。私だって毎日来るわけじゃないですから」

「そうですか…」

そこで会話が途切れるとコース料理の前菜が運ばれてくる。

「食べながら話を聞かせてもらっていいですか?」

それに頷くと身の上話をして過ごす。

「学生の頃はスポーツが得意な子供でしたね。それとよくボランティア活動にも参加していました。両親が他人のためになれって言うのが口癖で…幼い頃は意味が分からなかったんですが今では少しだけ分かっているつもりです」

「なるほど。ご両親の教えのおかげで私のことも助けようと思ったんですね。鏡さんのご両親にも感謝ですね。ありがとうございます」

中道は再び感謝を告げるときれいに微笑んで見せる。

「鏡さんのこともっと知りたいです♡」

その言葉に乗せられたのもあり僕の身の上を話すと彼女は君美の話題に触れてくる。

「恋人さんとは長いんですか?」

「いや…昨日付き合ったばかりです…」

正直に告げると中道は少しだけ妖しく微笑んで口を開く。

「それなら私にもチャンスがありそうですね♡」

突然の言葉にゴクリと唾を飲み込むと何とも言えない表情を浮かべた。

「あまり本気にしないで大丈夫ですよ♡」

中道はキレイに微笑むとコース料理の最後に出されたコーヒーを口に運ぶ。

食後にそれをゆっくりと飲み干すと中道は会計を済ませて店の外に出る。

「ごちそうさまでした。今日はありがとうございました」

「いえいえ。私の方こそ助けていただきありがとうございました。それで…」

中道はそこで言葉を途切ると意を決したように口を開く。

「また誘ってもいいですか?♡今日は楽しかったので…♡」

それにどうにか頷くと僕らは電車に乗り込んで帰路に就くのであった。


帰宅するとマンションの前に人影があるのが少しだけ妖しく思えた。

「おかえり。遅かったね…」

その人物はもちろん…。

「キミちゃん…なんで自宅知ってるの…」

少しの恐怖から問いかけると彼女は妖しく微笑むだけだった。

「そんなことはどうでもよくて…今日はどうだったの…?ってか家に入れてくれるよね…?」

やはり恐怖が上回ったが恋人の頼みということで彼女を部屋に招く。

「何もなかった…よね?」

それに何度も頷くと君美は僕に右手を差し出す。

意味がわからずに首を傾げていると、

「スマホ貸して」

その言葉に従うと彼女は僕のスマホのロックを解除して何やら操作をしていた。

「よし。これで大丈夫」

「何を…したの?」

「ん?位置共有しておいた。これで何処にいるかすぐに分かるから」

「そんな事しなくても…」

「今はそうかもしれないけど…心配だから…」

急に不安そうな表情を浮かべる君美が可愛らしく映り優しく抱きしめる。

「大丈夫だよ」

そう言う事しか出来ずに僕らの少し特殊な一日は終了していくのであった。

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