第3話繋がりたい…

君美と裸で抱き合って眠る時間がどれだけ過ぎただろうか。

不意に彼女は目を開けて僕に問いかける。

「何で襲わないの?そんなに魅力的じゃない?」

唐突に投げかけられた言葉に目を白黒させていると彼女は呆れたように嘆息して見せる。

「裸で抱き合っているんだから襲ってきてもいいでしょ?そうじゃなきゃ私だって服を脱いだりしないよ?」

急に態度が一変した君美に驚いていると彼女は自分の胸に僕の右手を当てた。

「触りたくない?少しも興奮しない?」

現在、ベッドの上で何が行われているのか僕自信が理解できていない。

先程まで震えていた君美とは別人のように思えて息を呑む。

「そんなことは…」

どうにか絞り出した言葉を君美は嬉しそうに受け取る。

「そうだよね♡興奮するでしょ?だったら心のまま私を貪ってよ…♡」

君美の言葉に僕は首を左右に振ると先程言った言葉を繰り返すだけだった。

「少しずつで大丈夫だよ。僕は何処にもいくつもりはないから」

「そんなことわからないでしょ?私の何を知っているの?私の本性を知ったら逃げ出すかもしれないじゃん。そうなる前に流さんと繋がりたいの…♡」

「それなら尚更だよ。どんなキミちゃんを知っても…それでも好きだって思えたら…その時は…」

「随分悠長なこと言うのね…」

「それはそうだよ。だって僕らは始まったばかりでしょ?」

「そうだけど…」

君美はそこで僕の手を離すと布団の奥まで蹲る。

何かしらの問題を抱えていると思われる君美に救いの手を差し出そうと背中に手を回すとそのまま優しく抱きしめる。

「何を怖がってるの?ここまでくれば大丈夫だよ」

「そんな事誰にもわからないでしょ…」

急にしおらしい態度を取る君美を不思議に思うと彼女の頭部にキスをする。

「心配ないよ。僕は何処にもいかない」

安心させるために言った言葉だが僕はこの不思議な出会いに運命や縁のようなものを感じていた。

普通ではありえない出会いに心が踊っているのは確かなことだった。

「言い切れるの…?」

「今のところはね」

「何で…?」

「それは…キミちゃんが美しいのもあるし僕なんかに惚れてくれたのが嬉しいからだよ」

「流さんは自分のこと過小評価し過ぎだよ…」

「そうかな…」

出会って間もないが彼女は僕のストーカーで少なからず僕のことを知っている。

だから君美の言いたいことも何となくは理解できる。

ただし僕は自分を過小評価などしていない。

「とりあえず明日も仕事があるから今日は帰るね」

部屋の時計を確認するとそろそろいい時間だったのでそう提案すると君美は首を左右に振る。

「嫌だ…行かないで…」

急に甘えた声を出す彼女に軽く微笑むと頭を撫でてベッドから這い出た。

服を着ると荷物を持って君美に別れを告げる。

「また来るから。じゃあ今日はこれで」

それだけ告げると君美の部屋を後にする。

玄関を出てエレベーターを降りて駅まで向かう。

少し離れた自宅に戻ると本日の奇妙な出来事を振り返る。

自分自身に起きた幸運な出来事に少しだけ頬が緩むと翌日も仕事なため早めに眠りにつくのであった。

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