第12話九条栞の覚悟
我社から鏡くんが退職していった。
理由は不明だったが正当な手続きを踏んで職場を離れた彼を不思議に思う。
何故姿を消したのか…。
そんな事を考えても私には分かるわけもない。
少なからず私は失恋をしたのかもしれない。
傷心の私に一通のメッセージが届く。
「5日後、ここに監禁されている男性を救い出したいだろ?俺たちは何も詳しくは知らない。ただそこに監視対象が監禁されているという事実を知っているだけだ。これをバラした俺たちはこのままトンズラする。後はあんた次第だ。名前も何も知らない俺たちを信じる必要はない。ただ愛する相手を助けたければ…そして俺たちを信じてくれるのであれば必ず5日後にそこへ行け。仲間が犯罪に手を染めるのを見ていられないんだ…。そんな俺たちの事情なんて知らないだろうが…まぁいい。このままSIMカードを捨てるので返信は受け付けることが出来ない。ではな」
そんな不可解なメッセージを目にして私の中でふっと何かが繋がった気がした。
鏡くんの突然の辞職。
何の前触れもなく姿を消した彼。
不可解なメッセージ。
もしかしたらこの全ては何かで繋がっているのかもしれない。
そう、彼には恋人がいた。
もしかしたらその恋人が鏡くんを監禁しているのだろう。
では何故5日後なのか。
そこはどう頭を捻っても答えにたどり着けなさそうだった。
私はまず帰宅すると父に話をする。
「鏡くんがピンチなの!助けたい!力を貸して!」
「………」
父は黙ったまま洋酒の入ったグラスを片手に思案に耽っているようだった。
しばらく黙っていた父は重たい口を開く。
「助けたとして。会社を辞めていった鏡と一緒になりたいのか?」
「もちろん」
「どうしてそこまでやつにご執心なんだ?」
「仕事で何度もカバーをしてもらったのもあるし、誰からの誘いにも乗らない身持ちの硬さも評価できる」
「………」
父は再び黙り込むと洋酒の入ったグラスを口に運ぶ。
それを飲み干すと父は一つ嘆息して口を開いた。
「何を言っても聞く耳を持たないのだろ。俺もそうだった。だからよく分かる。あの頃の親父はこんな気分だったのか…今更ながら恥ずかしいが自分も通ってきた道だ。同じ道を進もうとしている娘を否定するわけにもいかないな…」
父はそこで言葉を区切ると深く椅子に座り直す。
「それで。いつ何処に助けに行けば良いんだ?どれぐらいの戦力が必要なんだ?」
どうやら物騒な話になってきたが私は謎の男からのメッセージを父に見せる。
「なるほど。監禁されているか…本当にそうなのか?鏡が望んでここに居る可能性はまだあるだろ?」
「そうだとしても!そうなるにもきっと何か理由があったはず!私が追い詰めたのも理由の一つだし…他にも何か理由があったんだよ!監禁なんて許せない…非人道的な行為じゃないの?」
「………分かった。必ず助ける。説得が必要な場合はお前に頼るだろう。戦力を無力化してここから救い出すとして…それでもやつが部屋から出るのを拒んだ時のためにしっかりと心に訴え掛ける言葉を見つけておけ」
私はそれに頷くと父の部屋を出る。
自室に向かうと今までの彼との思い出を振り返る。
振り返ると言っても外で会ったことは一度も無い。
仕事上でのやり取り。
私の一方的なアプローチ。
でもどうにか彼の心に響くだろう言葉を探し出すと5日後を待つのであった。
九条家、出動!
次回最終話。
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