♯6 【二番目の選択】

 まぁまぁカオスってやがる……。


 だが、この世界に取り残されたのは俺たちだけではないようだ。

 それだけでも少し安心することができた。


 それになんとなく今の状況を掴むこともできたぞ!


 まだネットが使えるというのはとても大きいかもしれない。

 

 使える情報は一切なかったけどなッ!

 なんだよアニメ見て落ち着くって!?


「インターネットですか?」

「うん、こうしているのは俺たちだけではないみたいだ」


 ユウも俺のパソコンを覗き込んできた。

 それを見てユウも心なしかほっとした顔をしている。


「……」


 それにしても気になることが多すぎる。


 家族のこと、友人のこと、会社のこと。

 そしてこれからのこと。


 俺の知り合いはみんなどうなったんだ?

 もしかしたらメールや着信が俺の携帯に届いていたのだろうか。


 でもその肝心の携帯はなくしてしまっ――。


「あっ」


 そうだ!

 パソコンで携帯の位置を確認できるんだった。


「紛失したデバイス位置の特定だっけ……?」


 ネットで調べながら、自分の携帯の位置情報を確認してみる。


「え? なんで?」


 調べてみると俺の携帯は、世田谷にある実家を指し示していた。


 誰かが俺の携帯を送ってくれたのだろうか?


 それにしてはちょっとおかしな感じがするが……。


「うーん……」


 今は考えても分からない。

 事実として、自分の携帯が手元にないのは変わらずだ。


「とりあえず風呂に入ってサッパリしようかな……」


 考えても分からないものどうしようもない。

 なら、今はできることをしよう。


 うちの会社の鉄の掟その4。

 できることはすぐにやれだ。


 今は使い方が違う気がするけど!


「私はどうしたらいいですか?」

「ん?」


 上着を脱ぎ捨てようとしたら、ユウが俺にそんなことを尋ねてきた。

 しまった、今は迷子同伴だった。


「とりあえず体調を整えること! 疲れた顔してるよ」

「……」


 社畜フェイスのユウにそう伝える。

 そんなことを聞かれても、ぶっちゃけ俺だってどうしていいのか分からない。


「いっぱい食べて、いっぱい休もう。それから今後のことは考えよう」

「……」

「ほら、先にお風呂使っていいから」

「ありがとうございます……」

「あっ、洗濯する? 制服汚れちゃっているよね」

「できれば使わせてもらえると嬉しいです……」

「全然大丈夫。洗面所のものは勝手に使っていいから。あと、タオルと着替えは……」


 さて……。

 本当にこれからどうするべきか。

 とりあえず近くにある会社の様子は見に行きたいところだが――。




※※※




「すみません、お風呂と洗濯機借りました」


 ユウがお風呂から戻ってきた。


 ユウには俺の白いTシャツと緑のジャージのズボンを貸してあげた。

 一応小さめのやつを選んだつもりだが、かなりぶかぶかだ。

 ずり落ちないように自分でズボンを支えている。

 

 ユウがお風呂に入っている間、ネットを散策していたが特に有用な情報を得ることができなかった。


 まだ混乱の真っ最中と言ったところかな。


「……携帯が欲しいな」


 社畜だった俺は、どうも手元に携帯がないと落ち着かない。

 電話は……メールがあったのかだけでも確認したいのだが……。



プルルルル



 そんなことを考えていたら、後ろから携帯の着信音が聞こえてきた。


「ん?」


 ここで携帯を持っているのはただ一人。

 ユウだけだ。


 着信音はすぐに切れてしまった。


 ユウが驚いた顔で自分の携帯を見ている。

 ズボンを支えていた手は、完全に携帯に向かっていた。


「誰から?」

「……っ!!」


 俺の問いに返事はない。


 ユウはその着信にすぐに折り返しの電話をしているようだ。


 さっきまでとは一変、とても明るい表情に変わっている。


「なんで!? なんで出ないの!?」

「……」


 だが、その明るい表情はすぐに曇っていく。

 うっすらと紫の瞳からは涙が浮かんでいた。


「どうした? 大丈夫?」

「い、今! お母さんから着信がありまして!」


 ユウが俺の問いに普通に答えてくれた。

 警戒していた俺のことを気にしなくなるくらい必死になっている。



ピコンッ!



 今度は違う着信音が鳴った。

 これは多分、メッセージの受信の方だ。


「えっ?」


 ユウが驚いた顔で携帯の画面を見ている。

 つい気になって、俺もユウの携帯を後ろから覗いてしまった。



“東京にいます 母より”



 ただ短く、メールにはそのようなことが書いてあった。


 東京? どういうこと?


 ――そんなことを思った瞬間、俺の目の前にはまたゲームのメッセージウインドウのようなものが開いた。




◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖


 迷子の女の子を東京に送り届けますか?


 はい


 いいえ


❖____________________◢



 また選択肢が俺の目の前に現れた。



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