♯1 【最初の選択】
――鳥のさえずりが聞こえる。
「うぅん……」
窓から差し込む日の光で目が覚めた。
「ふわ~、よく寝た~」
こんなに爽やかな目覚めは本当に久しぶりだ。
「ん? ここはどこだ?」
体を起こして、周囲を見渡す。
白い天井。
白いカーテン。
白い床の上には白いベッドが沢山並んでいる。
どこからどう見ても病院の風景だ。
他の患者の姿は見えないが、どうやら俺は病室にいるらしい。
「やっちまったぁ……」
俺の名前は、
どうやら俺は過労で倒れて病院に運ばれてしまったらしい。
「はぁ……」
溜息が止まらない。
こりゃ後で上司に文句をねちねち言われるやつだ……。
「とりあえずゆっくり休もう」
倒れてまで仕事の心配をしないといけないとは。
そう考えるとちょっとイライラしてきたぞ……!
こうなったら久々の二度寝を全力で楽しんでやる!
※※※
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
おかしい。
病院ってこんなに静かだっけ。
二度寝を楽しんでから、ゆうに二時間は過ぎている気がするが人の気配を一切感じない。
看護婦さんの見回りくらいはあってもいいと思うんだけど……。
大体今日は何日だ?
俺が倒れてからどのくらい時間が経ったのかも分からない。
「喉乾いた……」
寝ていられなくなり、ベッドから起き上がった。
床には茶色のスリッパが無造作に転がっている。
ずさんな病院だなぁと思いつつも、そのスリッパを使わせてもらうことにする。
俺が身にまとっていた薄青色の患者着は、寝汗で少ししっとりしている。
お風呂にも入りたい気分になってきた。
「すみませーん!」
大きな声を出してみた。
……。
……。
しーん。
びっくりするほど反応がない。
あ、あまりの反応の無さに心配になってきたぞ。
本当に大丈夫か、この病院!?
ちょっと病室から出てみよう。
「ナースステーションなら誰かいるよな?」
病室の開き戸に手をかけると、思ったよりも勢いよく扉が開いてしまった。
ガタンと大きな音が病室に響き渡る!
「ごめんなさいっ!」
……。
……。
つい謝ってしまったが誰の反応もない。
本当に物音一つ聞こえてこない……。
「だ、誰かいませんかー?」
病室から出て真っ白な病院の廊下をゆっくりと歩く。
廊下にもひとっこひとり見つけることができない。
パタパタと俺のスリッパの足音がだけが響き渡っている。
ぶ、不気味だ……。
静かな病院ってなんでこんなに怖いんだろう。
「ん?」
少し歩くと休憩用のラウンジが見えた。
机と椅子が沢山並んでいるがここにも誰もいないようだ。
ラウンジの端っこには病院のお知らせの紙が貼ってあるホワイトボードがある。
お知らせの上部には病院名が書いてあった。
“公立S病院”
良かったー! 俺の知っている場所だ。
会社からも、うちからも近いところにある病院だ。
「ここって混んでいるイメージがあったんだけどなぁ」
俺の住んでいる場所は東北のある地方都市だ。
市内の大きな病院はここしかなく、いつもお年寄りを中心にごった返している印象があった。
「すみませーん!」
ラウンジから更に少し歩くと、ようやくナースステーションを発見した。
「誰かいないんですかー?」
自分の存在を知らしめるように、つい大きな声が出てしまった。
ゆっくりと歩いていた歩幅がどんどん大きくなっていく。
「誰か! 誰かいないんですか!?」
ナースステーションは真っ暗になっている。
どこからどう見ても人はいない……。
え? 休み?
そんなことあるの!?
「だ、誰か!」
自分の知っている場所の、よく分からない事態に軽いパニック状態になっていく。
俺は、近くの病室を手当たり次第に開けていくことにした!
いない!
いない!
ここにもいない! 誰もいない!
神隠しにでもあったのかと思うくらい誰もいない!
「そうだ! 一階に行けば誰かは!」
そうだよ! 下にはお会計をする場所があるはずだ!
そこなら誰かはいるはずだ!
さっきまで早歩きだった足は、ほぼ走るような形になっていた。
くそっ! スリッパでめちゃくちゃ走りづらい!
「うるさいんですが……」
「へ?」
「世界はもう滅んでいるんですけど……」
エレベーターを探して走り回っていたら、ふと女の子の声が聞こえてきた。
――その瞬間、俺の目の前にはぶわっとゲームのメッセージウインドウのようなものが開いた。
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
迷子の女の子を見つけました。
助けますか?
はい
いいえ
❖__________________◢
まるでノベルゲームみたいな選択肢が目の前に現れた。
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