異世界カントリーロード ~社畜の俺、迷子を助けたらノベルゲームみたいな選択肢が見えるようになる~

丸焦ししゃも

プロローグ

「今すぐ帰れ!」


 上司の怒号が会社中に響き渡った。


「なんでですか! その業務に俺は関わってないですよ!」

「言い訳するな! じゃあなんでそんなミスが起きたんだ!」

「そ、そんなの俺に分からないですよ!」


 俺の名前は、夏木なつき佳介けいすけ、二十二歳、独身、彼女なしの“社畜”だ。


「やる気がないなら帰れ!」

「な、なんで俺が関わっていない仕事でそこまで言われないといけないんですか!?」

「いいから帰れ! お前の顔なんて見たくもない!」


 は、話が通じない……。

 仕事といえど、さすがにそこまで言われると俺も頭に血が昇ってくる。


「じゃあ帰りますッ!  お先に失礼します!」


 勢いでそんなことを言ってしまった。




※※※




「やっちまったぁ……」


 午後の三時前。

 俺は自宅近くの狭い道を歩いていた。


 売り言葉に買い言葉。

 完全にやらかしてしまった。


「いや、だってあんなこと言われたら帰るしかないじゃん!」


 うちの会社はブラックだ。


 パワハラ上司にはいつも小言を言われ、いつも取引先からは勉強しろと怒られる。


 泊まり込みの仕事は当たり前だし、最後に取れた休みなんて思い出せないくらいずっと前だ。


 おつぼねと呼ばれている事務員さんの機嫌は常にうかがわないといけないし、支社長のつまらない駄洒落には愛想笑いをしなければならない。


 今日の出来事もそうだが、本当に理不尽しかない世界に生きていると思う。


「でも、だからと言って喧嘩していいわけじゃないんだよなぁ……」


 溜息が止まらない。


 それが社会人のつらいところなのだ……。


 どんなことでも喧嘩しては駄目だ。


 できるだけ穏便にすませないといけなかった。

 

「くぅうう……!」


 いわれのないことを言われて、頭に血が昇ってしまった。


 可能であれば“帰れ”と言われる前に時間を戻して欲しい!

 可能であれば俺が上司に言い返す前に時間を戻して欲しい!


「はぁ……」


 だが現実は非常である。

 時間が戻るなんてあり得ないのだ。

 

 いや、誰だってあの瞬間に時間を戻して欲しいって考えたことくらいはあるでしょう?


 言ってはいけないことを言ってしまったときとか、ギャンブルで金をスる前とかさ……。


「もう少し経ったら会社に電話しよう……」


 めちゃくちゃ憂鬱だ。


 俺は悪くないのになんで謝らないといけないんだろう。


 なんだか頭がくらくらしてきたし、お腹も痛くなってきたぞ。


「……あ、あれ?」

 

 そんなことを考えながら歩いていたら、本当に目まいがやってきた。

 お腹にも激痛が走った。


「痛ててて……! 急になんだろう……」


 体中から血が抜かれたみたいに力が抜けていく。


 ストレスかな……。

 そういえば最近全然寝ていなかったような……。


「ま、まずい」


 急に足に力が入らなくなり、地面に倒れ込んでしまった。


 やばい。


 やばい。


 やばい。


 焦る気持ちとは裏腹に体がどんどん動かなくなっていく。


「か、会社には連絡しないと……」


 ――ポケットから携帯を取り出そうとしたが、俺はそのまま意識を失ってしまった。

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