♯13 【四番目の選択】

「ふざけんなぁあああ!」


 急いでその男を追うも、すぐにその男は車に乗り込んで出発してしまった!


 はぁ!? 誰だよあいつ!


 しかも、なんでこんな状況でわざわざ人の物盗むわけ!?


 色々な感情でぐちゃぐちゃになっていたら、目の前にまたあれが現れた。



◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖


 泥棒を追いますか?


 はい


 いいえ


❖__________________◢



 アホかぁあああ! 追うに決まってるだろぉおおお!


 国道には車がいっぱいあるからすぐにそんなにスピードは出せないはずだ!


 俺は「はい」を押すことにした――


 そのまま急いで、外にとめておいた自転車に乗り込む。


「めちゃくちゃしやがってぇえええ!」


 車が走り出したほうに、俺も全速力で進む!


 ふざけやがって!


 社会のルールを守る社畜の前で、こんな無法なことをしやがって!


 小さい子の教育にも良くないし、俺がとっちめてやる!



ドォオン!



 そんな風に息巻いていたら、すぐ近くで爆発したような音が聞こえてきた。


「あーーー!」


 道路に出て、音がした方角に向かうとすぐにさっきの車を見つけた。

 思いっきり放置された車にぶつかっている。


 スピードは出せないとは思ったけどまさかぶつかるとは追わなかったよ……。


「お、おい! 大丈夫!?」


 ボンネットからは白い煙がぷすぷすと出ている。


「いててて……」

「何してんの!? いや、本当に何してんの!?」


 車の中から、さっきの金髪の若者が出てきた。


「俺、無免許やからさ」

「じゃあ乗るなよ!」


 イントネーションが関西のほうの人だ。

 まるで自慢するかのような口ぶりでそんなことを言ってきた。

 

「そんなこと気にしてるん?」

「普通は気にするでしょう!」

「こんな世界で?」

「いいから、荷物返せ!」


 車もよく見たら関西ナンバーだ。

 わざわざ関西から東北に来てたのか?


「っていうかこの状況でわざわざ人の荷物盗むな!」

「いや人がいるのって珍しいからさ、何かイベントが起こるかなと思って」

「理由になってない……」


 もう話したくなくなってきた……。


 多分、こいつと俺は別の人種だ。

 考え方も価値観も全然違う人だ。


「ところで君はスキル使えるの?」

「スキル?」

「こんな風に」


 その男が、さっきぶつかった車に拳を向けた。



ブォオン



 ものすごい風圧と共に真っ赤な炎がその拳から繰り出された。


「はい?」


 車がすごい勢いで燃え始めた。

 白い煙が黒い煙になって炎上している。


「……」


 ナニコレ?

 あまりにも非現実的な光景が目の前に広がっている。


「ど、どうすんだよこれ!?」

「燃やし尽くせばそのうち終わるんじゃない?」

「はぁああ?」

「俺、近所燃やしちゃったからこっちまで来たんだ。あっ、俺関西在住。分かる?」

「分かるかッ!」

「すごくない? ゲームみたいじゃない?」

「すごいけどすごくない!」


 同じ日本語なのに別の言語みたいに聞こえてくる!

 何を言っているか全く理解できない!


「多分、取り残された人はスキル使えるようになってると思うんだけどなぁ……」

「意味が分からない」

「あっ、そういえば耳が長い人を見かけたよ。現代が異世界化してるっぽい」

「全然、人の話聞いてない……」


 金髪の若者が勝手に話を進める。

 なんか危ないヤツの予感がする。

 俺の荷物も車と一緒に炎上しているのは追及しないようにしよう……。


「じゃあ俺はここで――」

「もう少し話さない? ネット以外でちゃんと話せる人が会うのは珍しいからさ」

「結構です」

「そんなこと言わずにさ」


 金髪が俺に拳を向けた。


「それは脅し? っていうか君は何がしたいの?」

「こんな世界だから好き勝手に生きてやろうかなぁと! やっと時代が俺に追いついたなって!」

「はぁ?」

「思ったことない!? 自分以外のくだらない人間はいなくならないかなって!」


 ……。


 ……。


 いや、そこまでは思ったことないけどさ。


 確かに社畜時代は自分一人になりたいって思ったことはあるけどさ。


「でも、実際俺がここにいるわけだから自分だけじゃないじゃん」

「そうそう! だから、どんな人がいるのか確かめたくなるじゃん!」

「はぁ?」


 矛盾しているようなしてないような……。

 それが盗みに繋がる理由もよく分からないし。


「名前、君の名前を教えてよ!」

夏木なつきだけど……」

「じゃあ俺のことはおにぎりって呼んでや!」

「なんで自分だけニックネーム。それに怖いから拳向けるのやめてよ」

「それで君のスキルは?」

「そんなの分かんないけど……」


 スキルってどう考えても……。


 やり直してぇ……こいつとこれ以上関わりたくないんだけど……。

 リュックサックの荷物は諦めるべきだったのかも。

 

「じゃあ抵抗できない?」

「ん?」


 おにぎりがそう言った瞬間、目の前が真っ赤になったような気がした。











※※※




◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖


 泥棒を追いますか?


 はい


 いいえ


❖____________________◢



 ――え?


 気が付いたらさっきの選択肢まで巻き戻っていた。


 何が起きたかは分からないけど、これが俺のスキル……ってこと?


 任意で選択肢の前でセーブ&ロードできるってこと?

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異世界カントリーロード ~社畜の俺、迷子を助けたらノベルゲームみたいな選択肢が見えるようになる~ 丸焦ししゃも @sisyamoA

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