♯12 緩やかに滅びる?

 コンビニのATMはまだ起動していたので、限度額までお金をおろした。


 おかげで、今までに見たことないくらいお財布がパンパンになっている!


「今日はここに泊まろうか」

「はい」


 俺たちは国道沿いのビジネスホテルに泊ることにした。


 √にINした全国どこにでもあるビジネスホテルだ。


 それにしても捕らぬ狸の皮算用というかなんというか……。


 ……ちょっと甘かったかもしれない。


 頭の中ではザクっと計算してはみたが、一日十時間歩きっぱなしは無理があるかも。


 一日目にして既に足が痛い。


 それに文明が残っているからなんとかなると思っていたが、人がいないので専門的なことは何もすることができない。


 現に今も、ホテルのカードキーすら探せないでいる。


「盗人みたいでやだなぁ……」


 ホテルのロビー周りを探す。


 カードキーってどんな風に管理してたんだっけ……。


 そもそもホテルの料金プランもよく分かってない。

 

 人の力って思ってたよりも偉大ナリ。


 誰もいなくなった世界を歩いてまだ一日目だが、早急に考え方を修正しないといけないかもしれない。


「見つからないならロビーで寝ればいいだけなのでは」


 迷子の少女がロビーのソファーで横になっている。


 こいつ……!

 お嬢様みたいな見た目をしているくせに考え方が基本脳筋だ。

 さすが東北から東京まで歩きで行こうとするだけはある。


「俺、お風呂に入りたいんだけど」

「それは私もですが」

「汗もびっしょりだし」

「それは私もですが」


 お金があっても人がいないと何もできない。

 物があっても人がいないと何もできない。


 くぅううう、なんだか情けない気持ちになってきた。


「ロビーでもエアコンは気持ちがいいですし」

「それはそうだけど……」


 ホテルのロビーは綺麗なままだった。

 空調はちゃんと効いているし、自動ドアだってちゃんと動く。

 トイレなんて快適そのものだ。

 なんならおまけで、よく分からないBGMだって流れている。


 ……人がいない状態でこれがどこまで維持されるのだろう。


 ユウの話だと、誰もいなくなってから一週間弱は経っている。


 壊れたら直すすべはないし、当然俺にそれをメンテナンスする技術はない。


(このまま誰もいないままだったら緩やかに滅んでいく……?)


 ふと、そんなことが脳裏に浮かんでしまった。


「うとうとしてきちゃいました」

「今日は色々あったもんね、俺も疲れた」


 ユウが眠たそうな顔つきになっていた。

 そうだよ、今日は朝から色々ありすぎた。

 とりあえず今日はロビーで休むしかないかな。


 部屋を探し回れば清掃中の部屋くらいは見つかりそうだけど……。


「フロントの奥にあるシーツは借りちゃおうか」

「はい」

「ロビーに泊まるって料金はどれくらいになるんだろう……」

「それは私には分かりません」


 ユウがどこか冷たい口調で俺にそう言った。


 とりあえず今日はもう休もう。


 ユウも言葉にはしないが、とても疲れた顔をしている。


「コンセントで携帯充電しておきなよ。せっかくモバイルバッテリー買ったんだし」

「勝手にコンセント使うのって犯罪では……」

「緊急時だから」


 いやその通りなんだけどさ!


 俺は、この状況でどこまで好き勝手にやっていいか分からなくなっていた。

 



※※※




 ロビーに飾られている時計をちらっと見ると、時間は朝の五時を回っていた。


 誰もいなくなった世界に目覚めてから三日目、昨日はそのままロビーでロビーのソファーで寝てしまった。


 ふかふかしていて、そんなに寝心地自体は悪くなかった。



ウィイイイン



 ふと自動ドアの音がした。


「んっ?」

「あっ」


 目があった。声がダブった。

 自動ドアのほうに目を向けると見知らぬ男の人がいた。


 年齢は俺と一緒くらいかな?

 金髪で軽薄そうな若者がそこにいた。


「んっ?」


 よく見ると、その金髪の若者は片手に見慣れたリュックを抱えている。


 自分の頭元に置いてあるはずの荷物を見る。


「はぁあああああ!?」


 ない!


 ない!


 ない!


 俺の荷物がない!


「お邪魔しましたー!」


 い、いつの間にーー!?


 あれって俺の荷物じゃねぇかぁあああ!


 ホテルの入り口には黄色の軽自動車が止まっていた。

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