第12話
女優の内田菜々が光田を訪問した話は、あっという間にバックルームに広がった。
もちろん、そよの耳にもすぐ入る。
その女優をよく知らなくて、ワーカーの久保が噂をしながら眺めていたファッション誌を覗かせてもらった。
ふわふわの衣装を着ながらも、凛とした視線と意思の強い眼差しが目を引いた。
その対比がカメラマンの意図なのだろう。
ただただ見入ってしまうほど、美しかった。
「キレイな人ですね」
そよの言葉に久保は目を見開いた。
「え?まさか初見?」
頷けば、久保は奇妙な物でも見るような視線をそよに向けた。
そよが見入っていると、脇から看護師の竹村が雑誌を覗きこんできた。
「今まで見たこともないレベルの美人さんよ。この世の者じゃないみたい。でも、」
「でも?」
久保の問いに竹村が少し間を置いた。
「何て言うか。すごく気の強そうな、勝ち気な感じ。超美人だけど。スタイルの良さもすごい。あのウェスト。あ、ズボンスタイルだったんだけど、すごい細いの」
竹村が興奮気味に両手でウェストの細さを表現する。
バックルームは内田菜々の美しさで持ちきりだった。
あれだけの人気選手だもの。
女優の彼女がいても何の不思議もない。
そして、あんな美しい彼女がいたのでは太刀打ち出来ないと。
誰もが、光田は一般人とは無縁のスーパースターであると改めて理解した。
内田菜々と互角になれる者はいなかったから、バックルームはようやく落ち着きを取り戻していった。
そよも現実を知った1人だった。
現実を知ったけれど、どこかでまだ、夢から覚めていなかった。
美しい恋人がいる人を、現実を知りながら、どこかで探していた。
光田は来週にも退院の許可がおりそうだった。
時間があればトレーナーとリハビリ室にこもり、トレーニングを積んでいた。
リハビリを続けながら、光田はそよが配膳に来たり、リハビリ室の消毒している時間を少し心待ちにするようになっていた。
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