勇者が魔王を倒したという話を未だ耳にしない。

『貴方は選ばれました』
一人前だと認められた人間の元に、そう綴られた1枚のカードが届く。
何に選ばれたのか……それは、その人の“適正役職”だ。

村や町を出ればモンスターが蔓延る世界で様々な人間に様々な役職が与えられ、それを了承した者がチーム、又は単体で王の元へと足を運ぶ。
そして大量のモンスターを生み出す元凶である魔王を倒すために皆旅立って行くのだ。

しかし誰一人として魔王討伐を成し得た者はいない。
だから送られた手紙の数だけいる勇者もそのお供である他の役職の人間も皆、まだ仮の英雄＿＿

今日もまた、この世界のどこかの誰かの元へと『貴方は選ばれました』と書かれたカードが届く。

“彼”もまた、その一人＿＿だった。