第5話 音源無くても自然とファンファーレが頭から流れる。


モンスターの眼に映るのは目一杯に金色の瞳を開く少年の姿……レベルの低いモンスターなのでダメージ量は大したことはないだろうが、この距離ならば一発攻撃を食らうのは確定だ。

そう、その筈だった。

しかしいつの間にか、否。いつの間にという時間をまるで感じさせないほど一瞬で、モンスターの視界から少年の姿は消え、代わりにカイの姿が映りこんできた。

モンスターが攻撃の対象を少年からカイに変えたのではない。強制的にカイの方へと変えられたのだ。


「攻撃も小説も、先を予測できてしまう展開は誰も喜ばん。叩かれてつまらんと吐き捨てられるのがオチだぞ?」


利き手である左手を強く握る。そしてそれを前に突き出すと、モンスターは勢いよくカイの拳に向かって突っ込んでいき__拳が突き刺さった。

拳の周りに粒子が舞う。

少年はただその様子を眺めることしかできなかった。

それほどあっという間の出来事であった上に、理解すら未だにできなかったのだ。


「ア、アンタ……今、何をしたのさ……。」

「何って、特に特別なことはしていないさ。俺はただ敵をこっちに“引き寄せただけ”だ。」


少年の目にも確かにモンスターがカイの方へと引っ張られたように見えた。いいや、本当に引っ張られていた。

飛び跳ね宙に浮いたモンスターがカイの方に。そして次は拳の方に。

勿論そんなのは一般人どころかどんな役職の人間でもできないことだ。つまり彼は__


「アンタ、“特殊能力の加護”持ち?」

「特殊……あぁ、確か隣の家の爺さんもそんな感じの単語を言ってた気がするな。」


彼らの言う『特殊能力の加護』というのは生まれながらにして持った能力の事で、遺伝等は一切かかわりを持たない、人によって種類や力が違う能力全般の事だ。

魔力無しに空を飛べたり、手を使わずに物を持ち上げられたり……中には指が変な方向に曲げられたり頬が伸びるだけだったりというものも存在する。

人はそれを神様からの授かりもの、または神からのオマケなどと呼び、これから出る役職にも影響が出るからと注目されている。

カイが持っているのは『人や物を一点に引き寄せる能力』だ。


「拳を出して、その拳にモンスターを引き寄せてぶつけて倒す……そうすれば動いたりせずに攻撃ができるのか。」

「まぁ引き寄せられる重さや大きさには限度があるがな。精々重めの成人男性一人が限界だ。遠くのものを取ったり移動させるのにはそこそこ便利だ。」

「ふーん……悪くない能力だね。逃げる敵を逃がさなくて済むし、近づけて命中率を上げられるのも良い。戦闘においては十分授かりもの扱いされるね。」

「物騒な奴だな。俺にとっちゃ戦闘に使うものとしてはオマケ……いや、余計なモンとしか思ってない。なぜなら俺は戦いたくはないからだ!拳は痛いし、何より面倒だ!」


ドドーンという効果音が付きそうなほどハッキリとドヤ顔で言ってのけるカイに、思わず深いため息が漏れる。

あんなにも強い力を見せたというのにその当人は戦う気がゼロ。それでも敵の群れの中に突っ込んでいこうとする。

肝が据わっているのか力に自信があるのか……いや、先ほど本人が言ったようにとりあえずどうにかなるだろうとしか思っていないのかもしれない。

……なんて大人だ。これでは放っておけないじゃないか。


「もうアンタ、いろいろ危なっかしいから目的果たすまで僕が守ってあげるよ。どこに行きたいわけ?」

「インクを買おうと思ってるだけなんだが……ここは遠慮なく無事に買えるまでは頼もうか。戦闘は極力やりたくないからな。」

「そういえば小説家って言ってたもんね。全く、加護持ちならそこそこいい役職もらってただろうに放棄してただの一般人になっちゃうなんて……能力の無駄遣いだよ。」

「なんでだ?原稿を投げ捨てるのに失敗したときやり直したりとか、辞書が使いたいときに本棚から出したりとか有効活用してるぞ。」

「それを無駄遣いって言うんでしょ。」


まるで兄と弟のように言い合いをしながら、二人でハーレー王国へと向かう。

足は長いがマイペースなカイと、背は小さいがキビキビ動く少年とは、自然と足並みが揃った。


「ところでお前の名前をまだ聞いてなかったな。」

「……僕はゲルダ。『ゲルダ・アモール』」

「ゲルダか。俺はカイ。カイ・クラウスだ。」


ゲルダが仲間になった。

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