第3話インク切れが嫌だからパソコンは最強。
柔らかな風。その風になびく原稿用紙。波打つ度に昇るインクの香り。
この平和なひと時を例えるならば、一体何と言い表せようか!
夏の太陽?いいや、もっと和やかで輝かしいものだ!
夕焼けの海?いいや、もっと清々しく爽やかだ!
このペンの進みがいつまでも続くのならばどんなに素晴らしいことか。
いつか止まる事は分かっているのだが、それでも動き続ける事を望んでしまう。
さぁ、次はどんな展開へと持ち込もうか!どのような言い回しをしてやろうか!そしてどのようなストーリーを綴ろうか!
次へ、また次へと文字を進め、筆先のインクを原稿用紙に馴染ませる。
インクの出が悪くなった。インクを筆先に足そうとしたところで……ふと、我に返った。
筆先はカチリと音を立てただけで全くインクを捕まえられていない。
よく見るとあったはずの黒い液体は瓶の底に膜を張る程度しか残っていなかった。
「インク切れか。」
萎えた。そう言いたげにペンから手が離れる。
手という支えがなくなったそれはころころと書きかけの原稿用紙の上を転がり、空になった瓶にぶつかってその動きを止めた。
……インク無しでは文字など書けぬ。
とりあえず追加のインクを出そうと近くの戸棚を開ける。
日も当たらず涼しいその戸棚はインクを保存するのには正に打ってつけだった。
しかし探しても探してもお目当ての品はどこにも見当たらない。どうやらいつもあって当たり前だと思っていたそれは、この日をもって完全に尽きてしまったらしい。
かなり長くインクというものを買い足していなかった所為で、あの瓶が最後であるという事も一切確認していなかった。完全に油断していた。
「……仕方がない。無いものは無いんだ。買いに行くとするか。」
カイは心底嫌そうにしながら財布とメモ用のペンと手帳だけを手に持つと、裏口から家の外へと出て、インクを買うべく近くの街__ハーレー王国へと足を向けた。
食べ物ばかりで他は必要最低限の物しか売られてないヒナタ村の店はハナから当てにしていなかった。
家の表の扉付近で、オーバが送り込んだ兵士達がいつ乗り込むべきかと相談していたなんて、彼は気づく余地も無かった。
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