少年と河童が織りなす、大人への処方箋

ふとした時に「自分も大人になったなぁ…」と思う事、皆さんにもあるかと思います。そしてその時、大人という言葉は大抵、あまり良くない形として用いられている様に思えます。
愛想笑いが上手くなる、肩入れせず人付き合い出来る、割り切って物事を捉えられる、凄惨な事件に動じなくなる…一種の諦観にも似た、擦れてしまった心とくたびれた身体。それを認識した時、人は大人を感じるのかなぁと思っています。

この物語は、そんな私達大人が、かつて持っていた色鮮やかな感情を、くっきりと思い出させてくれます。

主人公の守流は中学生。人よりちょっと内向的で、何にも自信がなく、特に夢もない…そんなどこにでもいそうな彼が、河童の喜八と出会った事で様々な気付きや価値観を得ていくお話です。お母さん、妹、友達、そしてお爺ちゃん…決して広くないのが子供の世界ですが、守流の世界にいる彼らも、皆生き生きと、そしてたおやかに物語を彩ります。
物語は基本的にはジュブナイル。小さい頃には持っていた感情や、子供ならではの目線といった、大人が忘れて久しいそれらが、守流の目線を通して非常に丁寧に、そして瑞々しい感性で描かれていきます。それでいて文体には無駄がなく、読み易いのが作者様得意の手法。一話をあっという間に読めてしまって、つい続きが気になってしまいます。
また、全面に打ち出されているわけではないのに、どこか常に懐かしさと物悲しさが感じられるのも、この物語の魅力のひとつです。数話お読みいただければ、必ず納得して貰えるはずです。特に涙腺の弱い方、後半はご注意ください。

大人をやる事にちょっと疲れてきている方、この物語で昔を思い返して、心に暖を取ってみてはいかがでしょうか。

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