これこそ、悲喜こもごも
- ★★★ Excellent!!!
舞台は、とある地方の領主館。
八人の領主の一族と、彼らの下で働く使用人達が織りなす日常が色とりどりに詰まった、珠玉の短編集です。
地方とは言え領主の館ともなれば、働く人間は少なくありません。となれば、その彼らが抱える事情も様々です。
時には恋愛に胸を焦がし、時には噂話で一喜一憂…こうした様々な問題や事件が、シンプルで無駄のない文体で生き生きと描かれていきます。
また、主だったメンバーは調理場の面々。彼らが幾度となく見せる仕事に対する情熱は、この物語における人間ドラマの深みを一層増してくれています。
人間ドラマという意味では、領主の一族もまた然り。まだまだ幼い末っ子から、領主の座を退いた老紳士まで、彼らにも当然、様々な思いや考えがあり、それに伴ったエピソードが展開されていきます。
そのエピソードの幅が非常に広く設けられているのが、本作の魅力のひとつです。ままならない恋愛、新たな一歩への不安、喪失との向き合い方、見守る事への葛藤…挙げ始めたら本当にキリがないほど、多岐に渡っているので、読み飽きるという事がありません。
魅力と言えば、際立った登場人物達の個性もふれないわけにはいきません。
ここがこの短編集の絶妙な匙加減なのですが、とあるエピソードで出てきた人物が、別のエピソードで重要な立ち回りを見せたり…と、馴染みの顔が少しずつ増えていくので、読み進めるのが楽しくなっていきます。そして、いつの間にか推しが出来ます。
ちなみに、私の推しは長らく老紳士とルイサだったのですが、一周回ってアントニーとコリーのペアになりました。自分で言うのもなんですが、かなりの通です(笑)
真剣に、そしてたおやかに。生を謳歌する活気で溢れる領主館の物語を、是非一度覗いてみて下さい。