地方領主の領主館で働く人々の人間模様と、彼らが仕えるご主人様一家の、静かで大切な時間の流れ。特に厨房で働く方々の恋愛模様がとても素敵です! 優しさと愛おしさ、それを見守る仲間たちの眼差しすべてが包み込まれるようです。
ただ、優しさだけではない、考えさせる一面もあって……。
突出して強烈な性格の方、というのはあまりいませんが、一人一人の個性が静かに光って立っています。なんだかフェルメールの絵画を眺めているような気持ちになります(変な例えすみません)
使用人の方々も領主一家の方々も、自分らしさを持った人間なんだなとしみじみ思います。手を伸ばせば触れられそうな、親しい気持ちになります。
領主館を舞台に繰り広げられる人間ドラマを扱った連作短編です。
使用人たちのラブストーリーもあれば、領主家族の物語も。
登場人物のそれぞれに人生があり、日常の中に笑いと涙があり、命のきらめきが感じられます。
それはいつの時代にか繰り広げられていた、ささいな日々かも知れません。
でものぞき見させてもらう私たちに、明日を生きる力を与えてくれます。
そして、自分の何気ない日常が、とても大切なものだったと気づかせてくれるでしょう。
群像劇という性質上、きっとお気に入りのキャラクターや、応援したい人物に出会えるはず。
移りゆく季節の中で、作者様のあたたかいまなざしを通して描かれる、領主館の人々の日常をぜひのぞいてみてください。