Episode2.俺にだけ厳しい世界

おい、これ詰みじゃねえか 1

「うおおおおお!!」


 この雄たけびは俺が勇気いっぱいに敵に立ち向かうものではない。

 坂に出てしまったらしく重力計算に負けてゴロゴロと情けなく転がる悲鳴である。

 ぺちょっと地面にたたきつけられる。じんわりと「顔面が痛い」と認識する。


「……」


 仰向けになり空を見上げる。青い空、ガタつきながら流れていく雲。


【無事?】

「心は無事ではない……」


 従兄弟のコメントに本心のまま答えると起き上がり、設定メニューを開いた。

 Pain――痛み。

 不可解なことに、その設定が100でロックされていた。現実と同程度の痛みを感じると噂だ。俺は試したことはない。

 ……大抵設定はロックされないものだと思っていたんだけどな。

 それに『痛み』の設定なんて大部分のプレイヤーが嫌がる要素だ。一部の変態のためにオプションがつけられていることがあるけれど、それでも初期設定ではゼロにされている。どういうことだ?


【何か起こっているんだ?】

【そこどこ?】

【さっきのフル太郎はどうなった?】

「全部一気に答えるけど――なーんも分からん!」


 酒場も、配信者たちも、ルリカも消えていた。

 俺だけ強制テレポートをされた? それともあの場の全員が?

 立ち上がる。ここで延々思考にふけっても良いことはない。

 先ほどのところかは分からないが遠くに街っぽいのがあるので向かってみよう。

 俺は今、考えなくてはいけないことで頭をいっぱいにしてパニックに陥る時間を先延ばしにしている。


「というかデスゲームだなんだ言っていなかったか?」

【そうなの?】

【すっげーノイズ走って見えなかった】

「誰か公式の情報見てくれー。さすがに演出だと思いたい……ん?」


 少し離れたところにいかにも宝箱ですといった風の宝箱が置いてある。

 周りの景色と浮きすぎているが、これ初代も同じように突然ポンと置かれていたので忠実な再現ともいえる。そういうところに凝らなくてもいいと思うが……。

 近寄ってまじまじと観察する。低確率でデーモンが溢れてくるギミックがあるからだ。

 音、しない。隙間、空いてない。大丈夫そうだな。

 蓋を開くと中には――3つの武器が入っていた。


「木の枝、レイピア、木製の盾――なんだこのラインナップは」

【なんか値段書いていない?】

「あ、ほんとだ」


 名前の下に数字が表示されている。

 木の枝、0円。

 レイピア、5000円。

 木製の盾、2000円。


 ……。

 なんだろう、いやなリアル感やめてもらっていいですか?

 円ってなんだよ。せめてここは仮想の通貨じゃないのかよ。

 おかしいな、初代はたしか「エンゼル」が通貨単位だった気がするんだが……。

 まあ、いい。とりあえずなにかしら武器が欲しい。ええと――大抵はステータス場面に所持金も載っているよな。


「ステータスオープン」


 これいつも思うけどマヌケな呪文だと思ってしまう。

 虚空に向けてオープンって何をやっているんだろうなと。ステータスが表示されなかったら恥ずかしいし。

 もし俺が異世界に転生したとしていきなり「ステータスオープン」とは叫ばないと思う。


「おお……これは……」


 しゅぞく:ひと

 れべる:1

 とくい:おうだ

 にがて:まほう

 けが:なし

 どくじょうたい:なし

 こうげきりょく:0

 ぼうぎょりょく:0

 そうび:ぬののふく、ぬののずぼん、くつ

 おかね:0


「これだけかよ!! このグラフィックで!! これだけの情報量かよ!?」


 頭を抱える。

 なんかもう少しごちゃごちゃした表示画面でもいいんじゃないのか!?

 フリーゲーム並みの簡潔さじゃねえか!


【おうだってw】

【このとくい・にがてっていつ設定した?】

「それはランダム要素。初代の時もそれがあるからリセマラとかされていたはず」


 おうだが得意ってなんだよ。近接戦をしなければいけないのだろうか。

 ともあれ、所持金はゼロということが判明した。ステータス欄を仕舞う。

 改めて宝箱を覗き込み、木の枝が今の俺が購入できるものだと確認をする。

 試しにレイピアを持ち上げようとするとバチっと電流が走ったような痛みと共に『おかねがたりません!』と警告文が出てしまった。

 草を生やすコメント欄を横目に木の枝を手にする。


 こうげきりょく:5

 ぼうぎょりょく:0


「ゴミじゃねえか!」


 犬が喜んで拾ってくる程度の強度しかねえじゃねえか!

 まあただで手に入るから期待はしていなかったけれど、もうすこしこう、手心というかなんというか……。


「やだよー、ワカバが持つのはこんな木の枝じゃなくてかわいい武器がいいよー」

【モーニングスター?】

【モーニングスター?】

「なんでモーニングスターが被るんすかねえ……」


 でっかい鎌とか、そういうのがいい。あ、でも打撃系武器がいいのか俺は……。

 ぶんぶんと枝を振り回しながら街を目指して歩き始める。

 誰かに会いたい。この状況を理解していないのが俺だけならなにが起きているか聞きたいし、相手も理解していないなら一緒に悩みたい。


 そもそもデスゲームがうんぬんと言ったきりアナウンスもない。

 困るんだよなあ。デスゲームの主催ならちゃんとルール説明してくれないと。

 ……本当にデスゲームなら困るんだが。


「お、犬」


 遠くのほうで犬っぽい何かがこちらに走ってきていた。

 ははは、目が6つあるよ。こえー。

 うわー遠くだったから小さく見えたけど近くに来たらすごい大きく見える。ヒグマぐらい。


【デーモンじゃねえのかあれ】

「……デスヨネ?」


 木の枝しかもってねえんだけど!?

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#投げ銭をして推しを生かせ 青柴織部 @aoshiba01

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