大切な人を亡くした経験のある人に、是非、読んでもらいたい

妻に先立たれた男と、突然現れた猫との静かで穏やかな日常を描いた作品だ。

妻との思い出の中には、猫は存在しない。しかし、猫の「なおさん」は、まるで妻の事を知っているかの様な、そして妻も「なおさん」を知っているかの様な、そんな不思議な時間が流れていく。

最後に、写真の中に語りかける男の心の声には、強く共感した。

自分事で恐縮だか、自分は婚約者を亡くした経験がある。その心の喪失感は未だにあり、寂しさで胸の奥が疼く事もある。主人公の男のように、猫のいる生活では無いけれど、きっと自分が宙へ逝くまで、男のように、記憶の中の愛しい人に話しかけるだろう。

猫の「なおさん」との生活のため。まだ、妻の元は行けそうに無い。その心は切なくもあり、また、優しいものでもあった。きっと「なおさん」の存在は、男の心をゆっくり癒すことだろう。