第8問目 勝負だ!

 とうとうきた、この時間。

 小テストでは、まっさらな紙が配られる。

 問題は担任の先生が黒板に書くので、写しながらいていくのだ。


 私は紙に名前を書き、じっと待ってる。

 先生が黒板の前に立つ。

 チョークを持った!


 緊張してきた!!


    ◇


「――おい奥山おくやま、これマジかよ」


 いじわる三人組のつつみさんが、学級委員の奥山さんにめよった。

 奥山さんは、私のとなりの席。

 つまり、交換して答え合わせをしてくれた人だ。


「ほ、本当だけど……」


 みんなが注目する中で、少しふるえた声で答える奥山さん。


 今は一時限目が終わった後の休み時間。

 クラスのほとんどの子が残って、私たちを遠巻きに見てる。


内藤ないとう小松こまつの点数はどうなんだよ!」

「小松君は……これだよ」


 小松の答え合わせをした内藤君が、おずおずと紙を堤さんに見せる。

 その瞬間、彼女の眼とまゆが思いっきりつり上がった!


「ふざけんな! バカヤロー!!」


 私と小松の答案用紙をくしゃくしゃにして、床に叩きつける。

 つかつかと歩いてきて、私の胸倉むなぐらをつかんだ。


「てめえ、何をした!?」

「ちょっと、苦しいから手を放してよ」

「てめえが満点とか、ありえねえだろが! インチキ野郎ヤローが!」

「は・な・せ!」

「いでっ」


 堤さんの右手首に思いっきり爪を立ててやった。

 私が突然反抗したからか、すごい目でにらみながらあとずさる。


 ……あの世界で命のやり取りをしたからかな。

 今の私には、こんなのちっとも怖くない。


「とにかく私は勝ったんだから、土下座しなよ」

「……ちっ」


 堤さんは舌打ちをすると、真っ青な顔をしている小松をにらんで言った。

 

「おい小松! こっち来てさっさと土下座しやがれ!」

「え……あ……」


 小松は、可哀想なくらい震えている。

 別に小松なんてどうでもいいけどさ。


「違うでしょ。土下座するのはあんたよ、堤さん」

「あぁ!? 何でだよ!」

「『負けた方が土下座』なんでしょ? 私との勝負に負けたのはあんた。小松は巻き込まれただけ」

「ふざけん――」

「ふざけてんのはどっちよ!!」


 自分でも驚くくらいの大声が出た。


「私の何が気に入らなくて突っかかってくんのか知らないけど、約束も守れないくせに偉そうなこと言うな! 大体あんたに何の権利があって他人ひとを勝手に土下座なんてさせられると思ってんの!?」


「な、なに――」

「私はあんたなんてちっとも怖くない。私とやり合うってんなら受けてやるから、ほら、かかってこいよ!!」

「ぐぐっ……」


 堤さんは目で殺せるものなら殺してやりたいくらいの勢いで私をにらむと「覚えてやがれよ」と言って、教室を出て行った。

 その後をみちるちゃんと斎賀さいがさんが追いかけていく。


 ドアがぴしゃりと閉められて、教室の雰囲気はふっとゆるんだ。

 一瑚いちこけよってくる。


「すごいよほっちゃん、どうしちゃったの!?」

「ん?」

「テストが満点ってのも信じられないけど、今の堤さんたちへの一喝いっかつ! びっくりしちゃったよ」

「……まあね」


 周りから「すごーい」とか「スカッとしたー」なんて声が聞こえる。

 小松もやけにキラキラした目で私を見てる。

 こっち見んな。


「いろいろあったの、私も」


 私はそう答えると、心の中でセシルたちにありがとう、とつぶやいた。

 そして、左手を見ながらもうひとことだけ付け加えた。


 ――これからもよろしくね……って。


                            (了)

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