第7問目 うーん……

 私は今、必死に逃げてる。


 なぜなら――後ろから怪物・・が追ってきてるから!


「はあはあ、セ、セシル、はあ、何あれ!?」

「いいから! とにかく逃げ――」

「きゃあっ!」


 私は思いっきり何かにつまづいてしまった。

 よりにもよって、こんな時に。


 振り返ると、怪物はそこまで迫っていて、ぶっとい棍棒こんぼうみたいなのを振り上げているところだった。


帆月ほづき! たてを!」


 私は倒れたまま、とにかく怪物に向かって盾を突き出した。


 ヴン!

《次の連立方程式を解きなさい》

《9x-5(x+y)=-3》

《3x-4y=-2》


「はあー!? 何これ!?」

「やっぱりダメか!」


 ヴン!

《解答制限時間を越えました》


 ボガンッ!!


「きゃあーっ!」


 ものすごい衝撃とともに、私は後ろへ吹っ飛ばされてしまった。

 盾がくだけて、ちりになっていく……。


 怪物はゆっくりと近づいてくる。

 棍棒を振り上げながら。


(どうしよう……もう木の棒しかないけど)


 こんな棒切れじゃあ、あのぶっといやつをどうにか出来そうになんてない。


「帆月! 棒とかけんでも一応防御はできるよ!」

「分かった!」


 私はよろよろと立ち上がると、木の棒を両手で持ってかまえた。

 そのとたん、やつの棍棒が振り下ろされる!


 ヴン!

《半径3cmの球の表面積を求めなさい》


「分かるかこんなん!!」


 ヴン!

《解答制限時間を越えました》


 バギンッ!!


「きゃああーっ!」


 ヴン!

《あなたのLBが消失しょうしつしました》 


 どうやらまぐれで攻撃を受け流せたみたい……。

 でも、棒はとっくにちりになって消えてしまった。

 両手がしびれてる。

 私は座りこんでしまった。


 セシルが飛び回って怪物を突っついてるけど、全然いてないみたい。

 怪物は暖簾のれんをくぐるみたいにセシルを手で払いのけると、私に向かってゆっくりと近づいてきた。

 また、棍棒が振り上げられる。

 スローモーションみたい。


 でも私は何も出来ず、ただ見ているだけ。

 目をつぶる。


 ――――

 ――


(……ん?)


 いつまでっても何も起きない……?

 恐る恐る目を開けると――怪物の胸から何かえてた。

 苦しそうにうずくまった怪物の後ろから、何か光るものが振り下ろされた。


 ずずーん……と倒れた怪物の代わりに現れたのは――男の子だった。


《オークを討伐しました》


 そんな声が聞こえた。


    ◇


 あれから私は算数ギルドに戻った。

 あの男の子の正体は、分からない。

 セシルは驚いていたけど。


 でも、


よええくせに無理すんじゃねえよ」


 とだけ言って去って行った。


 私も怪物の討伐に参加したことになったらしくて、変則的にだけど依頼達成になったみたい。

 ちなみにセシルも無事だった。


 ――これで私は、鉄のステージ4級になった。


 小学校の算数は、全てマスターしたことになる……らしい。

 いろいろと釈然しゃくぜんとしないけど、私は「目覚めのとびら」をくぐった。


 目覚めたら――いよいよ勝負の朝だ。

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