第6問目 ヤバい!

 それからの私は、自分で言うのもアレだけど頑張った。


 いろんな薬草をんだり野菜を引っこ抜いたり。

 お使いをしたり、物を運ぶのを手伝ったり、おばあちゃんの手を引いて教会に行ったりもした。


 そうしたら、二桁ふたけたの足し算引き算も出来るようになった。

 九九も間違えないようになった!

 恥ずかしいけど、私的にこれは地味にすごいことなのだ。


 あやふやだった分数や小数も、ちゃんと意味を理解できた。

 いろんな図形の名前も分かったし、面積とか体積とか、ちんぷんかんぷんだったのに計算できるようにもなった。


 私が依頼を達成するごとに、街の人たちもどんどん増えていった。

 今では歩いていると声をかけられるくらい。

 店もあちこちで営業を始めて、依頼でもらったお金で買い物できるようになった。


 ――そして今。


 私は街の外の、ある森の入り口に来ている。

 武器屋さんと防具屋さんで買った、木の棒と木のたてを持って。


「さあ帆月ほづき、最初の討伐とうばつ依頼だよ!」

「う、うん……」

「目標は――ほら、あそこをぶんぶん飛んでるの、見える?」

「ん~……あ、あれって」


 何かハエみたいな虫が見えるけど、ちょっとでっかくない?

 キモいんだけど……あっ、こっち来た!


「ど、どうしよう、セシル」

「おすすめは、まず盾で防御してから棒で殴る! だね」

「出来るかな……」

「大丈夫! ――ほら、突っ込んできたよ!」

「きゃあっ!」


 私は左手に持っていた盾をとっさに前に突き出した。

 その瞬間、


 ヴン!

《半径7cmの円の面積を求めよ》


(えと、えーっと半径×半径×円周率だから……)


 問題の下のスペースで急いで筆算をする。


「153.86㎠!」


 ヴン!

《防御成功。敵の攻撃を97%防ぎました》


「よし今だ! 棒で攻撃するんだ!」

「うんっ!」


 私は、右手の棒を目の前のキモいハエに向かって振り下ろす。


 ヴン!

4/77ぶんの4÷2/1111ぶんの2=?》


(うげっ、分数の割り算! ――えーっと)


 後ろをひっくり返して掛け算にして、えっと……


22/77ぶんの22!」


 ヴン!

《攻撃成功。武器攻撃力の92%のダメージを与えました》


 振り下ろした棒がハエを上からへし折ったと思ったら、姿がふっと消えた。

 代わりに羽みたいなものが現れて地面にふわっと落ちた。

 多分30cm近くある……結構でっかい。


「……倒したのかな?」


 私はその羽をひろうとセシルにたずねた。


「うん、おめでとう。初勝利じゃん」

「そうなんだ……でもさ」


 私は不安に思ったことをセシルに確かめてみた。

 

「これ、間違えたり制限時間えたりしたらどうなんの?」

「防御の場合は、防具にダメージが入るし、かかった時間や間違え方によっては帆月の生命隔壁せいめいかくへきが減るよ」

「なに? その『せいめいかくへき』って」

「バリアみたいなものかな。それがゼロになるとキミの身体に直接ダメージが入る」

「う、うそっ!?」

「もし骨が折れたりしたら、目覚めたキミの骨も折れてるからね」


 とたんに私の足が震え出した。

 血の気が引いていく音が聞こえるような気がする。


「こ、怖いんだけど……」

「大丈夫さ。キミのLB生命隔壁はすぐにはなくならないし、回復薬で戻せる」

「でも……」

「キミが問題をちゃんと解ければいいのさ」


 プレッシャーきつすぎる。

 いきなり命のやり取りとか……私、中一女子なんだけど。


「ねえセシル。いったん街に戻らない? 心の準備が――」

「しっ!」

「え?」


 私の声をさえぎったセシルが、森の奥をにらんでる。


「ど、どうしたの?」

「まずい……帆月、すぐに逃げて!」



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