鍵をにぎる者 7 *
パシオンの言葉に、ペイレネは立ち止まって小首をかしげた。
「スパルタ王制の場合、強く精神的に支配、というのとはちょっと違うのよね」
同じく立ち止まったパシオンの方を向き、彼女は、真剣な目になって見つめた。
「パシオン、あなた、人を愛したこと、あるわよね?」
軽くのけぞる、パシオン。
28歳の男の顔が真っ赤になった。
「そ、そりゃもちろん……あ……ありますよ」
「体ではないの、心で、よ。心の底から愛したことが、よ。
そしてその愛する人のために、死ねる、とまで思ったことは?」
ペイレネの黒い瞳とパシオンの明るい茶色の瞳が、一直線にぶつかる。
さわやかな夏の風が、吹きぬけて行った。
木もれ日がふたりに、ちらちらと光を投げる。
パシオンは苦く笑った。
「……ええ、ありますねえ」
にこっと笑うペイレネ。
「それなら、あなたにもわかると思うわ。
王に対するスパルタ人の気持ちは、それに近かった。
精神的な強い愛情、と言っていいと思う。
彼らは王を愛していた。王は彼らの心の故国であって、故国を愛していた。
だから王のため、すなわち故国のために、喜んで全力で戦い、誇り高く死ねたの。
そして、王であったクレオンブロトスさまも、スパルタの民を大きく深く愛してらしたことは、私が保証するわ。
他のポリスではそんなことはなかった。
支配する者と支配される者との、上下関係だけだった。
だから王制は次々となくなって、コリントスのような
政治形態的な善し悪しは別として、それらがスパルタに比べて、まとまりがなかったのは事実だと思うわ。
スパルタは、王と民が互いを愛し合って国を作って、それでギリシャ
だから他のポリスは、これまでは、そんな強いスパルタに勝てなかったのよ」
パシオンは黙ってうつむき、しばらく地面を見つめていた。
やがて顔を上げ、微笑む。
「私が間違ってました。
スパルタ人は哀れなんかじゃない。
スパルタ人は誰よりも強く、誇り高く、愛情深い民です。
ひょっとしたら、我々コリントス人よりも幸せだったかもしれない」
*―――― 『ギリシャ物語 Ⅱ 【前編】』 完 ――――*
【 ※この物語は、歴史フィクションです 】
● 『ギリシャ物語 Ⅱ 【後編】』にむけての簡単なまとめです。
崖から落ちて大怪我を負ったティリオンは、回復できるのでしょうか。
ティリオンが好きで、姫の居場所を隠し続けるレジナはどうなるのでしょうか。
ペイレネたちはアフロディア姫をみつけられるのでしょうか。
フレイウスに捕まったアフロディア姫やソリムはどうなるのでしょう。
フレイウスはティリオンと再会し、誤解をとくことができるのでしょうか。
エパミノンダスやペロピダスは、どのように動くのでしょう。
踊り子の正体はバレるのでしょうか。
タンポポ頭のネリウスは、どんなたくらみを持っているのでしょうか。
そして、愛し合うティリオンとアフロディア姫は、また会えるのでしょうか。
お楽しみに♡
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どうぞよろしくお願いいたします。 m(__)m
本城 冴月(ほんじょう さつき)
現在、この『ギリシャ物語 Ⅱ 【前編】』のシリーズ作品として、
● 『ギリシャ物語』
● 『ギリシャ物語 外伝 ~旅のはじまり~』
を、公開中です。
まだお読みでないかたは、ぜひ、お立ち寄りくだい。
『ギリシャ物語』URLはこちら ↓(歴史・恋愛・都市国家・忠誠・剣・ブロマンス・読みやすい)↓
https://kakuyomu.jp/works/16817330648949826464
『ギリシャ物語 外伝 ~旅の始まり~』URLはこちら ↓(歴史・恋愛・忠誠・犯罪・ブロマンス・読みやすい)↓
https://kakuyomu.jp/works/16817330651563623430
参考図書
ニュートンムック 古代ギリシャ (ジョヴァンニ・カセッリ監修)
ニュートンムック 古代ローマ (ジョヴァンニ・カセッリ監修)
ギリシャ文化史 (ヤーコブ・ブルクハルト 著)
アーキオ ビジュアル考古学 ギリシャ文明
古代ギリシャ人の生活、文化 (JPマハフィー著)
古代ギリシャの教育 (JPマハフィー著)
ギリシャ物語 Ⅱ【前編】 本城 冴月(ほんじょう さつき) @sathukihon
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