五・久しぶりの

「さや、大丈夫か?」

 動けなくなった私は、モヤを視られなくなり、目を瞑っていた。

「お父さん?」

 ゆっくり目を開けると、お父さんがいた。

「どうしたの? 仕事で今日は来れないって……」

「うん。でも、お母さんが心配で新幹線とレンタカー使ったらなんとか行けるん、わかったから」

 お父さんは、小声で私に話しかける。

 横目でおばさんを見ると、なぜか黒いモヤは消えていて、穏やかな表情でこっちを見ていた。

「お義兄さん、疲れとるでしょう。義母は私が、みよりますから。お義姉さんとさやちゃんと、ゆっくりしよってください」 

 おばさんはそう言ったあと、台所にいるおばさんの妹さんとマサくんを呼んできた。

「布団準備するけん、こっちどうぞ」

 バタバタと人が出入りしていることにお母さんは気付いたらしく、泣き腫らした顔をこちらに向けた。

 お父さんの姿を見て気が抜けたのか、お母さんはおばあちゃんのそばで倒れるように眠り始める。

「良かった。お母さん、なかなか眠らなくて」

「さやも、お母さんと寝てきなさい。おばあちゃんのそばにはお父さんがついてるから」

「うん……。ありがとう」

 お父さんが布団までお母さんを運んで、私はようやく気持ちが落ち着いてきた。

 おばさんの黒いモヤが嘘みたいに消えている。気のせいだったのかもしれない。疲れてて、黒いモヤが炎のように揺らめいてみえた。

 そういうことにしておこう。

 黒いモヤが消えてるのは良いことだと思うから。

「お父さんは、いつまでこっちにいられるの?」

「お葬式終わったらすぐかな。仕事が溜まってるからね」

「帰り、途中まで乗せてもらおうかと思ったけど、そんなに早く帰るならだめだね」

 お父さんは、できることならあと数日はお母さんのそばにいてあげたいんだと、お母さんの手を握りながら言った。

 二人は本当に素敵な夫婦だと、自分の両親だけど、そう思う。

「私、ひさしくんの部屋で寝るから。お父さんはここで休んでて。お母さんについていたいでしょ」

 私はそう言ったあと、布団をひさしくんの部屋に運んだ。もともと、ひさしくんの部屋に案内されていたんだから、これで良いんだと思う。

 二人でゆっくり過ごす時間が、最近はお互いが忙しくてなかっただろう。

 二時間くらい仮眠したら、おばあちゃんのところに行こう。


 

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