第一章 起
一、かくれんぼ
夏休みになると、おばあちゃんの家に泊まりに行く。お父さん、お母さんと離れて過ごす時間はさみしいけれど、いつもと違う食事は楽しいから我慢できる。お盆になると、お父さんとお母さんが、仕事が休みになって迎えに来る。八月十五日は、親せきみんなが集まるのが習わしになっていた。
お父さん方のおじいちゃんおばあちゃんは、わたしが産まれる前に亡くなっているらしく、親せきも少ないからこうして集まることはない。結婚するときにお母さんの姓を選んだお父さんは、きょうだいで仲たがいをしたらしく、疎遠になっているんだときいている。お父さんが不機嫌になるから、お父さんの親せきの話はしない。
去年は、おじさんとおばさんの都合が悪いから、お盆の食事会で行ったきり。今年は、夏休み入ってすぐ、おばあちゃんの家に泊まることになった。
夏休み初日──。
「かくれんぼと鬼ごっこ、どっちがいい?」
「ひさしくん、ずるいもん。隠れたふりしておうちに帰っちゃうでしょ。それに走るの早いから、わたしが鬼だとつかまえられない」
「そしたら、おれの友達呼んでくるけん、待っといてや。おれより走るんが遅いやつ連れてこーわい」
いとこのひさしくんは、わたしと同い年。意地悪だからちょっと苦手。でも、おばあちゃんの家に居るときの遊び相手は、ひさしくんしかいないから、しかたない。それに、おばあちゃんの家の近所、なかなか覚えられないから、お店や遊び場所を教えてもらえる。
ひさしくんに連れられて今は、おばあちゃんの家の蔵にいる。
「ここで待たなきゃいけない? 庭で待ってるよ。すぐ戻ってこないんでしょ」
「暗いけん、こわいんやろ? さやは泣き虫やけんなあ」
「こわいんじゃないよ。蔵で遊んだらだめって、おじさんやおばさんが言ってたじゃない?」
「おれはそんな話、知らん。ええから、ここで待ちよれや」
つよい口調で言ったあと、ひさしくんは蔵の入口を閉めた。
結局、いじわるしたいだけだったと思うと、腹がたってきた。
「ひさしくん、鍵かけちゃったかな。どうしよう。閉じ込めたこと、忘れられたら……」
締めきった蔵は、暑い。お茶のペットボトルは持っているけど、残りは少ない。
蔵には、使わなくなった古い農機具や、昔の家具など、骨とう品が置いてある。値打ちのあるものがあるから、蔵で遊んじゃだめだって。
どうしよう。誰も見つけてくれなかったら、死んじゃう? いやだよ。
手探りで、蔵のなかを移動してみよう。入口と正反対の壁の上の方に窓がある。あそこから、出られないかな?
うす暗い中で、奥の方は黒にしか見えない。それでも、何もしないよりはいいんじゃないかな。
もっとわたしが幼いときなら、泣きじゃくるだけだったと思う。泣いても変わらないなら動いてみる。
ひさしくんを待つより、ずっといい。
奥の壁に手がふれた。そのまわりにあるのは──。ずっと前におばあちゃんの部屋でみた、鏡台だ。
引き出しを開けて、階段みたいにしたら、よじ登れるかな?
一段目を開けたとき、誰もいないはずの暗がりから、手があらわれ、わたしは床にしりもちを、ついた。
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