二、移動
おばあちゃんの町までの最安経路を検索した。
新幹線と電車とバスを乗り継いでいけば、四時間で着くらしい。飛行機だとあっという間に着くのはわかってるけど、費用がかかりすぎる。
社会人二年目の一人暮らし、出費は少ないほうが良い。
元々の有給申請は二日だった。新たに忌引きとして三日。合計五日も休みを取れたのは、繁忙期の残業が多かったからではある。新たに忌引きとして休みが取れなかったら、一日だけの追加で諦めるつもりでいた。
いずれにせよ、よかった。新卒だったら無理だったはず。
東京駅の人混みを歩いてると、黒いモヤみたいなものが、人の背後にあるのがみえる。
また、視えはじめた──。
ひさしくんの幽霊に会ってから、高校に入学するまで、時々視えていた。それは、イイモノではないらしい。
背後にそれがある人は、病気に罹るか事故に遭うか、ひどい場合は亡くなる。
黒いモヤみたいなのがある、それを友達に話したら、気味悪がられて無視されるようになった。事故に遭ったり病気になったりと、私が視たと言ったあと必ずそうなる。
言わなきゃ良かったなんてあとのまつりだけど、そういうことがあってからは、視えることは話さないようにしている。
お父さんとお母さんは、私がひさしくんに会った話をしたときから、腫れ物にさわるような態度にかわったから。
おばあちゃんは、違った。
『さやちゃんは、おばあちゃんに似たんやろ。おばあちゃんも、昔は、視えよったよ。不思議なことあって、どうしたらええかわからんなったら、いつでも話、きくけんね』
もう、誰にも話せないんだ──。
乗り継ぎを何度かして、最後の駅に着いた。ここからはバスに乗らなきゃいけない。
バス停にある時刻表をみて、「え!!」と思わず声が出てしまった。
一時間に二本しかない。
そっか。そうだった。だから、家族で来るときは、空港からレンタカーだったんだ。ひさしくんに会ったときの夏は、駅までおじさんが迎えに来てくれてた。
不便だけど、東京とは違うゆっくりとした時間の流れを感じるこの町が、結構好きではある。
就活していた頃、この町の会社も候補にいれていた。結局、六社目で内定でたから受けていない。
バスの時間まで駅ナカのコンビニへ行こうとしたとき、おじさんからの着信でスマホが震えた。
『さやちゃん、今、どこらへんに
「おじさん、今、ちょうど駅に着いて、バスを待ってるところです。母の様子、どうですか。母のそばにいてもらって良いですか? その方が良いと思うので、お願いします」
『ほうやな。かなり、つらそうにしとるけん、さやちゃんがそう言うなら、姉さんのそばに居るようにしよわい。バス、なかなか来んやろうから、近所の、ひさしの友達やった子を迎えによこすように言うけど、どうする?』
「ひさしくんの友達って、マサアキくんとかユウイチくんとか、ですか? ずいぶん、会ってないですけど……」
『ちょうど、お通夜とかの手伝いに、マサくんが来とるけん、駅に行くように言うとく。駅ナカのコンビニで待ちよってな?』
と、なんだか強引に話を進められて電話は切られてしまった。
十年くらい会ってないんだけど、わかるんだろうか。
少し不安になりながら、コンビニへ移動してみる。
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