三、お墓参り

 わたしは、ひさしくんのことを意地悪な親せきの男の子としか思ってなかった。

 わたしを嫌いなら、怖がらせるだけなら、最初から蔵に閉じ込めてるはずだよ。

「ひさしくんは、事故、だったの?」

 もう会えないと思うと、涙がぽろぽろあふれてきた。意地悪だったけど、こっちに遊びに来たら必ず遊んでくれた。

 おばあちゃんは、お仏壇のひさしくんの写真をじっとみている。

「車の、事故やったんよ。あの日は、雨がひどい朝でなぁ。ひーくん、学校行く前に、夏休みもうすぐや楽しみやわ、待てんなあって笑いながら言うてて」

 それ以上、おばあちゃんもわたしも、言葉を忘れてしまったみたいに黙ったままだった。

 わたしは、手をあわせて、ひさしくんに「遊んでくれてありがとう。ゆっくり、やすんでね」と、小さな声で話しかけた。

 涙がおさまってきた頃、わたしは蔵の中での話をおばあちゃんに話した。

「ほうか……。鏡台の引き出し開けたん」

 手があらわれたこと、それはあまり怖くなかったことも話した。

「引き出しには、鏡さんいれてた箱があったやろう?」

「うん。箱があったよ。鏡さんって、ずっと前に見せてくれた、きれいな鏡のことだよね」

「そうやねぇ、さやちゃん、覚えとったね。前はそこに仕舞っといたんやけど、今はお寺さんに預けとるよ」

 鏡さんがあった場所からあらわれた手は、悪さをするものじゃないと、おばあちゃんも感じてるようだった。

 おばあちゃんは、らしい。もしかしたら、わたしもおばあちゃんと同じかもしれないと言われた。

「さやちゃん、怖いと思わんでええよ。悪さをしてくるもんは、さやちゃんにはなんも出来ん。蔵で見た手は、さやちゃんを守ろうとしとるから大事おおごとにはならんようになっとる。これから先もだいじょうぶやけん、安心しぃや」


 八月十五日、わたしはおばあちゃんとおじさん、おばさんと一緒に、ひさしくんのお墓参りに行った。

 お線香に火をつけたとき、風がとまって、わたしの左腕のあたりがあたたかく感じた。

 ひさしくん、毎年来るからね。ひさしくんの好きなみかんジュースも忘れずに持ってくるから。

 

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