六、静かに
ひさしくんの部屋に行き、布団を敷く。スーツケースからルームウェアを取り出して、辺りを見回す。
「着替えるんやろ。見るわけないやん」
透けてるひさしくんが、目の前に現れた。機嫌が悪そう。
幽霊になっても心は成長するのか、真面目に考えてしまった。見た目は小学生だけど、もしかしたら精神的には私と同じくらいになってる?
「見たところで、なんもできんのやけん、さっさと着替えや」
実体があればどうするつもりなんだろうと、すこしだけ考えてしまう。
なんでだろう。ひさしくんは幽霊なのに、怖くない。怖くないけど、恥ずかしい。もっと小さい頃は、一緒にお風呂入っていたのに。
「じゃあ、背中向けて。いいよって言うまで」
ひさしくんが背中を向けたのを見届けてから、いそいで着替える。
それから、いいよと言った。
でも、ひさしくんは背中を向けたままだった。
「おばあちゃん。どう、やった? 俺の事故は天罰やとおもてるから、かまん。やけど、おばあちゃんは、まだ、さやちゃんのそばにおってほしかった……」
「天罰って、どうしてそんなこと言うの?!」
「さやちゃん、ごめんな」
泣いてるような声でそう言ったあと、ひさしくんは消えた。何度か声をかけたけど、現れてくれなかった。
天罰って、どういうこと?
気になってしまって、仮眠どころじゃない。
ひさしくんの学習机の引き出しを開けてみることにした。何かわかるかもしれない。わからないかもしれなくても、何かをしていないと、落ち着かなくなっていた。
お葬式が終わって、火葬場に向かう。お父さんは仕事があると言って、レンタカーで帰っていった。
お母さんのそばにいられないのが心配みたいで、私とおじさんに目を離さないように念をおしていた。
さいごの最期。おばあちゃんとのお別れ。私もお母さんと一緒に、声を出して泣いた。
おばあちゃんの遺品整理をすることになった。おじさんとおばさんが、蔵とおばあちゃんの部屋を片付けていく。
「まだええやん。なんで、そんなすぐせないかんの?」
お母さんは乗り気じゃない。もっと時間をかけて、おばあちゃんがいたことを偲んでいたい。
私もそう思う。
おじさんたちは、ひさしくんが亡くなったとき、そう感じなかったんだろうか。親と子では、違うのかもしれない。私にはわからない心情かもしれないけど、引っかかってしまう。
「おじさん、お母さんがもう少し元気になってきたら、一緒にしたらいいんじゃないですか? お葬式終わってすぐなんて」
おじさんが手を止めた。言いたげな顔をしている。
どうしたんだろう?
「全部するんやないけん。半分でも終わらせといたらええことないです?」
おばさんが、刺々しい口調で言い放った。
おばさんは、お母さんと私に対してあたりが強い。それはずっと前からだけど……。
「おまえがそれを言うな」
おじさんが、怒鳴るわけでもなく、力なく言った。
お母さんは、静かに泣いていた。
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