第4話 4.初めての依頼
朝。
なんて事はない日。
いつもの日常が流れていく。そんな中、アレン達はギルドに来ていた。たくさんの羊皮紙が貼られた依頼掲示板の前でアレンは眉根を寄せていた。
「で、どれを受けんだ?」
アレンが依頼書群とにらめっこしているところに、コストイラは欠伸を噛み締めながら聞いてくる。
昨日のカフェで、戦いの後の話し合いにて、次の街に行くための路銀稼ぎを当面の目標にすることにした。話し合いの中で、アレンはチームワークに問題があることを確信していた。
「全員の実力がある程度わかるものが良いんですよね」
「ふーん。んじゃあ、これじゃね」
コストイラはアレンの方を見ずに左頬を掻くと、適当に1枚の羊皮紙を手に取った。
ギルド。
冒険者達が必ずお世話になる施設だ。冒険者へのアドバイス、仕事の斡旋、持ち込まれる魔物の一部の換金、冒険者の初期訓練など様々な仕事を請け負っている。そんなギルドの仕事の1つに死亡率軽減がある。持ってくる依頼がどのレベルの冒険者にふさわしいか精査し、判断する。
「お願いします」
赤毛の青年が依頼書を持ち込む。
「はい、かしこまりました」
受付嬢は羊皮紙を受け取ると、奥に引っ込む。
「部長? この依頼なんですけど」
「うん?」
部長は呼ばれたことで振り返り、羊皮紙の内容を確認し、持ってきた冒険者を見る。
「あいつか。無鉄砲な奴だがパートナーがいるようだし大丈夫だろう」
羊皮紙にバンっとハンコを押した。
アレン達は森の中に来ていた。
「今日は、兎狩りだ。張り切っていくぜ」
「空回んないでよ」
コストイラのはしゃぎ様に、アストロは溜め息交じりに突っ込む。
今回の依頼はコストイラの言う通り、兎狩り。アルミラージの討伐だ。アルミラージは額に一本の大きな角を生やした兎の魔物だ。その跳躍力と角の鋭さが危険視されている魔物だが、初心者でも倒せる程力は弱い。よく出現するので、いつでも依頼掲示板に掲示されている。
「お、早速いたな」
草陰からガサガサとアルミラージが出てくる。
『キュイ?』
「一人一匹は倒せるように頑張ろうぜ」
コストイラが刀を抜きながら発言する。刀が炎を帯び始める。アルミラージはその目を警戒に染め、突進してくる。コストイラは突進に合わせて刀を振り、角を叩く。角が砕け失速する兎に対し、刀を逆手に持ち換え、兎の脳天に刺す。
コストイラは刀を収めながら振り返る。
「そんじゃ、いってみよう」
アシドは槍の柄で肩を叩きながら歩く。
叢から音が鳴る。アルミラージだ。すでに兎は突進してきている。しかし、アシドは狼狽えず何食わぬ顔で槍を振るう。水飛沫のような青いエフェクトを出しながら、もう1回転。
アルミラージはアシドの目の前でピクピクと動いている。まだ生きており、殺せていないことを指していた。
「あいつは2発。オレは3発。まだだなァ」
嘆息交じりに首を振り、アシドは槍をアルミラージの首を貫く。
アルミラージの角は換金対象だ。さっきコストイラは1匹分砕いてしまったので換金額が減ってしまった。コストイラは調子に乗ってしまうが、アシドはしない。しっかりと角を回収する。
アルミラージの角は硬い。コストイラが砕けたのはもともとあの個体の角が傷ついていただけだ。
アルミラージの角は加工すれば騎士剣として使える。その硬さは日夜冒険者を悩ませ続けている。斬れない、絶てない、壊せない、砕けない。さらに楯を貫通してくる。
レイドは微妙な顔をして困っていた。原因は勿論アルミラージだ。楯を貫通され、もう危うし、絶体絶命かと思ったが、このアルミラージは角が楯から抜けなくなったらしい。楯に刺さった状態でプラーンプラーンと揺れていた。
「さて、と」
いつまでも呆けているわけにもいかないので、楯を木に立てかけ、大剣でアルミラージの首元を狙う。
「フン!!」
一撃では倒せない。二撃目でアルミラージは断末魔を上げ、力が抜けていく。
「……さて、この刺さったままの首はどうしたものか」
アストラは面倒臭げに息を漏らす。
「なんでこんなことを。コストイラめ、変な提案してくれちゃって」
アストロは優等生だ。通っていた学舎でも他の追随を許さぬ程優秀で、信頼も厚かった。彼女は要領が良かった。
兎は現在アストロの生み出した炎の塔に囚われていた。塔が消えるころには兎はこんがりと焼けており、美味しそうな状態になっていた。獣臭さがあるが。
「あーあ。ダルイ」
獣臭さに耐え兼ね、指輪だらけの指で鼻を摘まむ。アストロは兎肉が苦手であり、匂いも好きになれない。一刻も早く立ち去りたいアストロは雑に角を回収する。
シキは葉を揺らすことなく、枝の上に乗っていた。単純にアルミラージを上から探すためだ。しかし、その様は完璧なステルスであり、そこにいることは乗っかられている木にしか気づいていないのではと思わせるほどだ。
現在、シキの目には2匹のアルミラージが映っている。一発で仕留めるために感覚を研ぎ澄ましていく。
完璧な捕食者は一撃で仕留める。執拗に甚振ることもせず、油断はしない。
父の教えだ。
音は立てず、ナイフを抜き、音を立てずに前傾姿勢になっていく。そのまま自然に重力に身を委ね、アルミラージに致命傷を入れる。
アルミラージは何が起こったのか分からないまま生を終えた。
シキは角を切るのではなく、血抜きを始める。奇麗な状態であればアルミラージは肉も売れるのだ。
エンドローゼは攻撃手段に乏しい。ただし、攻撃力は並程度にあるので決して弱いわけではない。しかし、攻撃魔術が1つしかなく、物理攻撃もひたすらに杖で殴るしかない。ただ、エンドローゼが殴れるわけではない。そんな訓練も受けたことないので、選択肢にあるかすら謎だ。
さらに問題なのは、エンドローゼは判断が遅い。
そのため、兎に攻撃が当たらない。
「…………そろそろ助けた方が」
「…………攻撃を任せんのは無理だな」
アレンとコストイラは一筋の汗を流した。エンドローゼの攻撃は一切がアルミラージに当たらない。
『キュイ』
アルミラージに遊ばれている。ハァと溜め息を吐き刀を抜こうとすると、兎は炎に包まれた。
「きゃあ!?」
「ええーーーえぇ!!?」
コストイラとアレンがアストロを見る。
「何?」
「エンドローゼさんに当たったらどうするんですか?」
「でも助かったでしょう?」
アストロは悪びれもせず、さも当然のことのように返す。
「万が一が」
「あるわけないでしょ」
アストロが自信のあり余る顔で、豊かな胸に手を置く。
「だって、私よ?」
アストロが去っていく。アレンは手を宙に泳がせたまま、口をもごもごさせる。
「アイツはあぁいう奴なんだよ。勘弁な」
後ろからエンドローゼを連れたコストイラが、アレンの肩を叩く。
「後はお前か」
アレンは樵だ。正式には樵ではないが、樵だと思っている。なので武器は斧かと言われたら違う。斧は樵の命であり、敵を殺す武器とは思っていない。むしろ斧に失礼とさえ思ってる。他人が使うのは何とも思わない。
ゆえにアレンが使う武器は斧の次に使っていた弓矢だ。勇者の目となってから練習したが、止まっている的には8割、動いていたら2割程度しか当たらない。もしかしたらエンドローゼと同じくお荷物かもしれない。
集中する。アルミラージの動きをよく見る。どっちに動く?右?左?
アルミラージの筋肉が動く。左!
少しだけ狙いを動かし先回りして撃つ。アルミラージの後ろ脚に矢が刺さる。動きが鈍ったところにもう一射。今度は腹に当たる。
アレンは解体用のナイフを抜きながら、警戒を解かずに兎に近づく。アルミラージは抵抗できない。思いっきり首に刃を立てる。不安だからもう一回。
矢が当たってよかった。
内心バクバクである。
「めちゃ素人に見えたけど案外当てられるんだな」
「お上手」
煽られているようにしか聞こえないが、素直に受け取っておこう。
全員の攻撃性能を見たがチームワークがどうにかなる気がしてきた。まぁ結局は穴の埋めあいだが。
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