第14話 14.古の大蛇

 アレン達は泉から少し離れた場所で、おびき出し方を考えていた。




 石を投げ入れたり、倒したブルーホースやヴァイパーの血を流したりしたが、変化はない。




 このままエルダーサーペントが出てこなかったら、依頼が達成できない。あの受付嬢にまた怒られてしまう。好感度がだだ下がりだ。別に構わないのだが。




 案が出ず、アシドが作戦会議に飽きて、バシャバシャと槍で水面を叩いているが、飛び出してくるのはヴァイパーばかり。




「ねぇ」




 アストロがもう苛ついてきて、声が不自然に平坦になっている。笑顔のまま怒っているようだ。全員の視線がアストロに向く。




「魔術撃つから離れて」




 あのアストロが許可を取ってきた?




 失礼な驚きをしているが、それはアレンだけではなく全員だった。シキでさえ目を見開いている。アストロがムッとする。




「何?」




「あ、いえ。なんでもないです」




 全員が視線を外す。アストロは舌打ちをすると泉の方に向く。




 アストロが魔力を込めて右手の人差し指を向けると、洞窟内だというのに雷が落ちる。




 ぷかーっと魔物が浮いてくる。




 ヴァイパー。ヴァイパー。またヴァイパー。




「エルダーサーペントは?」




「…いない」




 浮いてきたのはヴァイパーばかり。ブル-ホースすらいない。ブルーホースはこの泉に住めないから手前の河にいっぱいいたのかもしれない。




 落胆する一行の元に、勢いよく飛び出してくる影があった。それは雷の電撃に耐えかね、思わず体が動いてしまったのだろう。




 濃い青色の鱗に覆われた体。こちらを睥睨するオレンジの目。鋭く、弱き者に恐怖をばら撒く牙。ヴァイパーの時とは比べ物にならない圧倒的な緊張感。




「来た」




 水から出ている部分だけですでに3メートルを超える体長を少しだけ曲げ、いつでも攻撃できるように少し口を開けている。間違いない。これは。




「エルダーサーペントです」




 すでに臨戦態勢のエルダーサーペントを見て、アレン達も戦闘状態に入る。








 エルダーサーペントは体を揺らしながら、様子を窺ってくる。こちらもゆっくりと動き、迎撃のできる位置へと動いていく。どちらも攻撃に転じない。




 互いの時間が硬直する。




 最初に時間を動かしたのは、意外にもアレンだった。ただ、静かな時間に耐えられなかっただけのコミュ障なのだが、誰も知る由がない。




 エルダーサーペントは放たれた矢を軽々と躱し、反撃に転じる。アレンとエルダーサーペントの間にレイドが割り込み、楯で防ぐ。




 ダゴォン。




 エルダーサーペントは跳ね返されながらも、次の得物を見定める。




 狙いは顔が恐怖で染まっているエンドローゼ。エルダーサーペントは体を捻り、方向転換をして、エンドローゼを襲う。




 蹲ってやり過ごそうとするエンドローゼの後ろから槍が突き出され、エルダーサーペントの目を貫く。




『ジャアアアアアアアアアアッッ!!』




 エルダーサーペントはその長い体を仰け反らせ、アシドから距離を取ろうとする。アシドは、途中まで槍を手にして抵抗しようとしたが、パワー負けしていることを悟ると、あっさりと手を離す。




 エルダーサーペントは、再び仰け反り、右目だけで敵を探す。




 次に捉えたのはアストロだ。身を捻じり、突進する。




「あなた。優柔不断ね」




 アストロは冷静にそう告げると、言い終えると同時に魔力が発射される。魔力は真っ直ぐと進み、エルダーサーペントの残っていた目も潰される。




 エルダーサーペントは痛みに仰け反る。何度も仰け反っているが、背骨への負担はどれほどなのだろうか。




 眼は見えない。そんなことではエルダーサーペントは止まらない。エルダーサーペントには蛇らしくピット器官がある。しかし、エルダーサーペントのピット器官は蛇のそれよりも高性能だ。熱のみならず、電磁波や魔力さえも感知することができる。




 エルダーサーペントには全員がどこにいるのか分かる。すべて感知できる。




 エルダーサーペントは牙を鳴らし、敵を捕捉する。そのまま突進へ。敵に噛みつき千切ってやる。




『ジャア!アッ?』




 エルダーサーペントの口の中に異物が入り込む。口が閉じれない。噛めない。肉じゃない?




 エルダーサーペントはドロドロと口の中から粘性の高い液体が溢れ出ているのを感じ取った。しかし、それが何かは分からない。いや、分かろうとしていない。分かってはいけない。だってこれは。




「だぁ!くっそ、めっちゃ汚れた!」




 アシドがエルダーサーペントに突き入れた槍を抜くと、血が一気に飛び出してきて、服を汚した。




「回収すんのって牙だっけ?」




「そうですね。あ、あと鱗もお願いします。討伐した証拠を提示しなきゃいけないので」




「了解」




 コストイラが牙を折り、レイドは丁寧に鱗を剥がす。




「で?鱗回収の本心は?」




「…………お金は稼がなきゃ暮らしていけないんですよ」




「………………それもそうね」




 切実な理由にさしもアストロも黙った。
















「はい。依頼完了を確認しました。お疲れさまでした」




 受付嬢の営業スマイルを貰い、皮袋に入った硬貨も受け取る。渡すときに受付嬢が腰を曲げたので、こちらも腰を曲げてしまう。




 依頼報酬の他に臨時の報酬もあった。これなら予定より早く旅立てそうだ。

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