第13話 13.大蛇の洞窟

「はい。それではこの依頼を受理させていただきます」




 受付嬢は依頼書にハンコを押す。先日この受付嬢に説教を2時間浴びたばかりなので、少しビクビクしてしまう。




「どうかしましたか?」




「い、いえ」




 アレンは受付嬢から目をそらしてしまい、不審な目で見られてしまう。




「今回は討伐ですので、お間違えなく。それでは頑張ってください」




 受付嬢は睨まれながら告げられ、最後は笑顔で送り出される。あの一件から、受付をするたびに確認されるようになった。恥ずかしいが仕方あるまい。




「あとどれくらいこの街に滞在するんだ?」




「そうですね。もう少し依頼をこなして、お金を稼げたらですね」




「じゃあ、頑張んねェとな」




 コストイラは頭の後ろを掻く。アストロははぁと溜め息を吐きながら、不満げに文句を言う。




「勇者って国から援助金とか出ないの?ねぇ、勇者のシキ?」




「貰ってない」




 シキははっきりと告げ、首を振る。




 獣道を歩きながら会話をしていると、依頼書に書いてあった目的地に着く。アレンは目的地の洞窟の前で依頼の最終確認をする。




「今回の依頼は、エルダーサーペントの討伐と、その牙を持ち帰ることです」




「1本で良いのか?」




「本数は書いていないので1本で良いんじゃないですかね?」




 アレンはアシドに聞かれ、依頼書の隅々まで見るが書いていない。




「それでは行きましょう」




 アレン達は洞窟内に突入する。
















「これで6匹目」




 レイドは6匹目となるブルーホースを斬りながら囁く。アシドはうんざりとしながらブルーホースを突き刺す。




「他の魔物が全然出てこねェな。これなんだっけ、ブルーホース?」




「そうですね」




「件のエルダーなんちゃらはどこにいんだよ」




 コストイラが手で傘を作りながら左右を見渡す。




「もう少し奥に行かなければ、いないのでしょうか?」




「分かんねェけど、いねェならしょうがねぇだろ。奥に行くしかねェ」




 コストイラは真っ直ぐに奥を見ながら答える。




 洞窟は奥に行けば行くほど、明るくなっていった。




 サラサラと流れる河。




 谷や岸を形成する水晶。




 その景色を形成するすべてのものに目を奪われた。




「いつまで阿呆のようにボケっとしているの?」




 アストロの声に我に返り、先へ進む。




「この水晶は売れねェのか?」




 コストイラは水晶の一つをポンポン叩き、疑問を漏らす。アストロは緩慢な動きで振り返り、コストイラを見て首を振る。




「二束三文よ。加工しずらい。保存しづらい。使いづらい。他にもいろんな理由で値段が低いわ。これを売るならそこら辺の石でも売った方がお金になるわ」




「そら残念」




 アストロの返答を聞き、肩を竦める。そこでコストイラはふと気づいた。




「アレンは何取ってんだ?」




 コストイラの視線にアストロも視線を向けると、アレンはせっせと何かを詰めていた。




「あぁ、あれは白瓏石ね。楽器、建具、爆弾他にもいろいろなものに使えるわ。そこらへんで取れるから依頼に出されることは少ないけど、それなりにそこそこの値段で買い取ってくれるわ」




「そこそこ?」




「300、いや250くらいかしら」




「そこそこだな。まァ、ねェよりもマシって話か」




 そんな会話をされているとは露知らず、アレンはせっせと白瓏石をバッグに詰めていく。これで少しは早く出発できる。アレンはにこにこと微笑んでいるが、他の者達は目を逸らす。エンドローゼはドン引いていた。




 奥に着くと、水が湧き続ける泉があった。キラキラと少し光っており、幻想的な美しさを感じ取れる。




「ここが最奥部?」




「のようだな。ほかに道はないみたいだし」




「え、え、エルダーサーペントはい、い、いないですね?」




「水の中じゃね?」




 泉はレイドの言う通り最奥部にあり、その他に道はない。ここまでも一本道だった。どう考えても水の中にいるのだろう。




「水の中か」




 アシドは泉に近づき、中に手を入れる。命知らず、そんな単語が思い浮かびすぐに止めようとする。




「お」




 アシドは小さく声を出すと、パッと手を引いた。




 その、つい1秒前までにアシドがいた場所に、一直線に突っ込む影が水から飛び出した。




 蛇のような外見をした2.5メートル程の魔物。青い肌に目元から体長の3分の1程度の長さまで伸びた黒い線が警戒を煽る。




「水に戻させんな!」




 アシドは水に戻ろうとする水蛇に腹を叩き、陸に留まらさせる。




『ジャアアアアアアアアアアアアアア!』




 水蛇は牙を剥き出しにし、レイドに飛び掛かる。レイドは水蛇の鼻の頭を楯で殴り、怯んだところを拳で殴り飛ばす。




「よっしゃ。ここだ!」




 コストイラの剛力な上段は的確にヴァイパーの頭蓋を砕きつぶした。




「オレ、本物を見たことねェんだけどよ。これがエルダーなんちゃらなのか?」




 コストイラは刀を拭いながら、頭の潰れた魔物を眺める。




「エルダーサーペントね。いい加減覚えなさい。あれはヴァイパーよ」




「え、じゃあまだ水の中か?」




 コストイラとアストロは泉の中を覗き込むが、中まで見えない。




 中までは見えない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る