第10話 10.魔獣の森

「すみません。皆様には指名依頼がきております」




 ゴブリンパレードがあり、中日を一日設けた翌日、アレン達は依頼を受けるためギルドに来ていた。依頼を受けようと掲示板に向かおうとしたところ、受付嬢に呼び止められた。理由が冒頭のセリフだ。




「指名依頼ですか?」




「ある程度有名になるとあんだよ。アイツにやってほしいって依頼。お近づきになりたいとか、オレが最初に目を付けたって牽制とか。まぁ、巻き込み型の有名料ってやつだ」




 アレンの疑問に対してコストイラが両手を頭の後ろで組ませ、つまらなそうに答える。要は面倒事の押し付けだよと困り顔をする。




「こちらです」




 受付嬢が依頼書を手渡してくる。少し離れたところにある廃城の探索という内容。そして依頼書には信憑性の為に依頼主が載っている。そこを参照すれば、誰が指名したのかも分かる。




「えっと、依頼主は……ヴァイドって書いてありますね」




「あの禿げ、押し付ゲっ!?」




 依頼主に文句を垂れようとしたが、途中で言葉を遮られる。頭を殴られたのか、コストイラは頭を押さえながら振り向く。




 そこには拳を握り締めたヴァイドがいた。




「テメェも禿げにしてやろうか?」




 エンドローゼを震え上がらせるドスの利いた声でコストイラを脅す。そのヴァイドの頭は今もなお光を反射して、禿げを主張している。拳骨が怖いので誰もコストイラを庇わない。




「今回の依頼は、この前のゴブリンパレードでの戦いっぷりを高く評価した結果だ。今回も期待しているぞ」




 コストイラは今にもぶん殴りそうな目でヴァイドを睨んだ。
















 今回の依頼書に記載されている城は、かつてこの地で高名だった魔術師が建てたモノだと言われている。説明をしてくれた受付嬢はその魔術師のことは知らないらしい。ご近所トラブルで森の向こうに追いやられたとされているそうだ。こちらも知らないそうな。いったい何をしたのか。




 最近になって魔物がいるかもしれないと考えられ、発見したという報告も受けたので、本格的に調査に乗り出したらしい。




 街を出発したアレン達は15分程で森に辿り着いた。この森を抜けると例の廃城だ。




 この森は魔獣の森と呼ばれている。多くの鳥獣的外見をした魔物が住んでおり、いくら駆除してもいつの間にか住み着いてしまっているそうな。この街の領主は常にクレームが押し寄せており、手を焼いている。




「あんま魔獣に遭遇しないな」




「人間を餌としてみていたとしても、武装した7人の人間をすぐに襲うのは、よほど狩れる自信がある魔獣だけですよ」




 何度も駆除を試みたと言われたので、その分だけ魔獣も学習していると思われる。これは理性ではなく本能だろう。魔獣だって死にたくないのだ。




 オーーーーン。オォーーーーーン。




 魔獣に出会わず、順調に進んでいると、犬かオオカミの遠吠えのような声が響いた。




 全員が辺りを見渡す。魔物はいない。




「何だったんだ」




「分かりません」




「どこからか分からないが、きっと見られているな」




 ずっと止まっていては仕方ない。進まなければいけないし、仕方がないのである。
















 森を半分まで踏破したところで、アレン達を影が覆った。見上げてみると烏のような黒い鳥が旋回しながら飛んでいた。




「あれは鳥?」




「シーグルですかね?」




「ここからじゃ届かねェぞ」




 アレンはシーグルを狙い、弓を射る。




 鋭い一射をシーグル達は躱していく。シーグルは空中で速く羽ばたくと、回転しながら突貫してくる。




 レイドは楯を斜めにして構え、シーグルの突進を受け流す。しかし、ダメージは貫通し、レイドの腹を捕らえ、顔を歪ませる。上に戻ろうとするシーグルをコストイラが斬り、仕留めていく。




 実はその間も上空を旋回しているシーグルを狙い矢を放っていたアレンだったが、すべて避けられており全く当たらない。後ろから溜め息が聞こえた気がする。オカシイ。動いている的には2割は当てられていた筈なのに、勇者として旅をし始めてから一度も当たっていない。確率は壊れたのか?




 シーグルの上から雷が落ちた。一匹に当たると、周りに伝播していく。すべてのシーグルが落ちてくる。こんなことのできる仲間は一人しか知らない。アレンはアストロを見る。




「何?」




「なんで最初からそれをしなかったんですか?」




「あなたが何かしようとしていたからよ。邪魔しちゃ悪いと思って」




 アレンは何も言えなくなってしまった。




 コストイラは刀の背で肩を叩きながら、目の前で繰り広げられる不毛な争いに嘆息した。

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