第16話 16.剛腕の土人形

 壁に罅をつけ、倒れ込むシキは、ピクリとも動かず、ただただ頭から血を流している。




「し、し、シキさん!?」




「エンドローゼッ!」




 皆の時が一瞬止まる中、最初に動こうとしたのはエンドローゼだった。しかし、レイドがエンドローゼの腕を摑み、動きを止めさせる。




「な、なんで!」




「今行ったらシキの元に辿り着く前に、エンドローゼがやられてしまう。あれを見ろ」




 最初、エンドローゼにはレイドの言っていることが理解できなかった。だが、レイドに促され見た光景によって、ようやく理解が追い付いた。




 他3人がシキを飛ばした犯人の姿を捉え、相対していた。




 紅く彩られた粘土で作られたような体のゴーレム。体のところどころは硬い殻で覆われていた。自身の顔と同じくらいの大きさの拳も、その殻で武装されている。




 マイトゴーレム。




 間違いなく、この洞窟最強の存在。
















「こっちは引き受ける。早く行け」




「すまない」




「レイドは戻ってこいよ」




「了解した」




 レイドはエンドローゼとマイトゴーレムの間に入りながら、移動する。エンドローゼは、シキの元に辿り着く直前から回復を始める。




 マイトゴーレムの意識がそちらに削がれる。




 アレンは弓を射るが、その硬い体に刺さることはなく、あっさりと弾かれる。しかし、その一発で意識がこちらに戻ってきた。マイトゴーレムが動きだし、アレンに迫る。その動きは遅く、アレンよりも遅い。




 しかし。




 アシドが文字通りに横槍を入れるが、弾かれる。コストイラもその重戦車が如き進攻に割り込み、炎を纏いながら居合をぶつけるが、マイトゴーレムは止まらない。コストイラはその体に弾かれた。




 アレンに向かってくるマイトゴーレムから逃げながら対策を考える。




 皆器用ではないので、殻がないところを狙うということができない。狙ったところで当たってくれない。頼みのシキはダウン中。次に器用なアストロはここにはいない。3番手のアシドは通用しなかった。打つ手がない。いや、打つ手を生まなくては。




「ぐっ!!」




  マイトゴーレムばかりに気を取られていたせいで、足元が疎かになっていた。アレンは小石に躓き、よろめいてしまう。




 瞬間、炎を纏った拳が頭上を通り過ぎ、肝を冷やす。助かったと思ったのも束の間、脇腹に衝撃が走る。拳は二つあるのだ。




「っ!?がっっ!!っえっっ!?」




 地面を転がりながら、えづき、止まる頃には口内分泌液は口の端から次々と流れ出ている。口が自然と開き、閉じてくれない。




 マイトゴーレムは硬く拳を握り、アレンに近づく。




 肺が空気を求め、浅い息を繰り返すアレンは、マイトゴーレムの対処などできない。できることなど、せいぜいそこら辺に落ちている石を投げるくらいなものだろう。




 あとは拳が落とされるのを待つのみ。




 しかし、救世主は現れる。




 アレンの前に2メートル近い巨漢が現れ、マイトゴーレムの一撃を楯で防いだ。




「レイドさん」




「いけ」




 アレンは見た。マイトゴーレムの後ろに佇む蒼い勇者を。




 蒼い髪を逆立て、金の眼は光輝き、敵を見定めている。日焼けした肌を猫のようにしならせ、一歩歩むごとに足元からは水飛沫が出ている。




 アシドの薙いだ槍はマイトゴーレムの顔に当たる。マイトゴーレムは踏鞴を踏み、アレン達から離れる。




 勝った!




 誰もがそう思った。次の瞬間、腕は正常に動きアシドの肋骨を折りながら吹き飛ばす。




 遠距離攻撃をしたいが、アレンの弓矢は効かない。アストロはいない。




 決定打がない。




 アレンは思わず目を閉じる。




 ドシャァァーーーー。




 音を聞いてアレンは目を開ける。




 マイトゴーレムの体が崩れていた。




 マイトゴーレムに勝った。ナンデ?




 疑問が浮かび上がる。




 そこで、アレンの眼が飛び出さんばかりに開かれる。




 マイトゴーレムの核にナイフが刺さっている。




 アレンがバッとシキの方へ振り向くと、シキはエンドローゼにお礼を言っていた。




 彼女は復活して、ノータイムで正確に核を撃ち抜いたのだ。




 尊敬と礼が尽きない。
















 マイトゴーレムの殻を数枚剥がし、ギルドへ持っていく。核はナイフを抜くと砕けてしまったので断念した。




「ふむ。この状態ですとこのぐらいの額ですかね」




 換金師に金額を提示され、アレンは驚く。しかし、顔には出さない。結構お金になるな、マイトゴーレム。




 お金が入った布袋を手にする。




「お、よぉ、お前ら」




「え?…………ヴァイドギルド長」




 金額に驚いているところに手を挙げながら、2メートル近い巨漢が軽快にアレン達に歩み寄ってくる。




「いやぁ、見つかってよかった」




 もう嫌な予感しかしない。ヴァイドの笑みはそう思わざるを得なかった。もしかしたら、何かの楽しい酒宴のお誘いかもしれない。




「実はお前らに指名依頼が入ってな。ほら」




 良い笑顔でヴァイドが依頼書を渡してくる。




「名前を見ろ」




「ヴァイド」




「やっぱテメェか」




「待て待て待て」




 ヴァイドは焦って制止を呼びかける。




「それなりに報酬があるぞ。オレのポケットマネーだ」




 金額を見ると2000リル。平均的な白瓏石が2個ぐらい買える。これまでの依頼の最高額がゴブリンパレードの時の1800リルだから、この金額は破格だろう。




 とはいえ、これはあれだ。




 予感は当たった。




 面倒事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る