優しい旋律が誘う愛しのファンタジー

公爵家の三男坊・レオンシュタインは、運命の日、足取りも重く、城を去った。一年間の修行とは名ばかりで、事実上の追放である。

お供は仮面の少女、唯一人。手持ちも少なく、あるのは毎日欠かさず練習するバイオリン。見窄らしくも、侘しくも見えるけれど、それで充分だった。
マスクで顔を覆った少女は、こう言う。

「あなたには光り輝く才能がある。バイオリンの腕前と誰にでも優しいこと」

それで充分だった。
主人公の優しさは、人と魅了し、仲間を呼ぶ。
彼の奏でるバイオリンの音は、行く先々の民を惹き付け、感動を呼ぶ。

──旅情と成長

一年の追放生活を終えた頃、彼の目の前には、見違える世界があった。厄介なことも悩んだこともあったけれど、新しい世界に到達した。

そして、新しき領地=ノイエラントを巡る物語が始まる。
土地を肥沃にし、街を整えるのは一筋縄では行かず、並々ならぬ苦労も待ち受ける。しかし、彼には仲間が居た。信用し、信頼される仲間が居た。

──艱難汝を玉にす

逆境も、茨の道も、何のその。勇気と知恵と優しい心で、枯野を畑に、荒地を町に。
 
物語はドイツ風の情緒溢れる世界から、東国の香りを招いて更に広がり、この後の展開は余り予想が付かない。
けれども、これは偉大なる領導者の慈しみに満ちた、メロディアスなファンタジーに違いない。

その叙事詩、彼のサーガを何処までも見守りましょう。六月の牡丹のように栄え輝くノイエラントの完成を目の当たりにしましょう。

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