公爵家の三男坊・レオンシュタインは、運命の日、足取りも重く、城を去った。一年間の修行とは名ばかりで、事実上の追放である。
お供は仮面の少女、唯一人。手持ちも少なく、あるのは毎日欠かさず練習するバイオリン。見窄らしくも、侘しくも見えるけれど、それで充分だった。
マスクで顔を覆った少女は、こう言う。
「あなたには光り輝く才能がある。バイオリンの腕前と誰にでも優しいこと」
それで充分だった。
主人公の優しさは、人と魅了し、仲間を呼ぶ。
彼の奏でるバイオリンの音は、行く先々の民を惹き付け、感動を呼ぶ。
──旅情と成長
一年の追放生活を終えた頃、彼の目の前には、見違える世界があった。厄介なことも悩んだこともあったけれど、新しい世界に到達した。
そして、新しき領地=ノイエラントを巡る物語が始まる。
土地を肥沃にし、街を整えるのは一筋縄では行かず、並々ならぬ苦労も待ち受ける。しかし、彼には仲間が居た。信用し、信頼される仲間が居た。
──艱難汝を玉にす
逆境も、茨の道も、何のその。勇気と知恵と優しい心で、枯野を畑に、荒地を町に。
物語はドイツ風の情緒溢れる世界から、東国の香りを招いて更に広がり、この後の展開は余り予想が付かない。
けれども、これは偉大なる領導者の慈しみに満ちた、メロディアスなファンタジーに違いない。
その叙事詩、彼のサーガを何処までも見守りましょう。六月の牡丹のように栄え輝くノイエラントの完成を目の当たりにしましょう。
その醜い容姿によって実兄や従者らに虐げられ、鬱屈とした日々を過ごしていた心優しくも不器用な青年──伯爵家第三公子・レオンシュタインと、弱い立場が故に彼よりも遥かに壮絶な加虐行為に苦しめられていたメイド・ティアナは、些細なきっかけで彼らにとって「監獄」とも言うべき家を追放され、自由を手にした……。
(以下、第1章:旅立ちを読了後の感想です。)
まずは言葉選びが繊細かつ丁寧で、文学的センスを直に感じ取れることのできる地の文が好きです。時流に沿った「追放モノ」であり、定石を踏襲しつつも、オリジナリティ溢れる独特な世界観と、ルッキズムに対する風刺的な要素も相俟って「異世界ファンタジー」とは銘打ってあるものの、非常に現代的で、個人的に序盤から考えさせられる内容となっておりました。
何故ティアナが言葉通り「仮面」をしているのか?
(「魔力で作られた」とあるが、そんなことが可能なのか。「魔力」なるものの汎用性や如何に)
一般人は武器を使って物理的な戦いに挑むような世界で、彼女のようなしがない従者が魔法を使えるのは?
(大魔導士の娘だというのが本当だとして、虐げられていたのは仮面だけが理由か)
レオンシュタインが父にすら冷遇されていたのは本当に容姿だけが原因か?
(彼自身にも何かしらの原因がないと「外見が醜い」というだけで、従者にすら見下されてしまうのは流石に……)
などなど、様々な疑問が頭の中を渦巻く、忙しい序盤でした。「伏線」と言われてしまえばそれまでなのですが、この辺りに関する情報は小出しにしていってくださった方が読者側の理解が促進され、以後の展開に期待感が持てるかなとも思いました。これは一個人の好みによる感想なので、ご容赦くださいませ。
父が死に、伯爵家の三男坊レオンシュタインに言い渡されたのは修行の旅1年間。
同行は仮面のメイドただ一人。
事実上の追放に近い状態で放り出された2人の旅が今の所のメインになります。
誰にでも誠実で素直に他人の才能に目を見張り、賞賛を惜しまない主人公の周囲に少しづつ様々な人が集ってくる様は読んでいて非常にワクワクします。
旅の途上で別れたあの人はまた出てくるのかな?と考えつつ読むのもまた一興です。
舞台は中世ドイツが下敷きと勝手に推定しておりますが、街中の様子、行き交う人々の表情が丁寧に読みやすい文体で、とても生き生きと表現されているのも魅力の1つです。
後はもうこれ、飯テロでしょ!と叫びたくなる位に出てくる食べ物が美味しそう……!
人の良い穏やかな主人公と彼に寄り添う仮面のメイドの行く末を是非、読んでみて下さい!
レビュー時点で最新話(23話)まで読んでのレビューになります。
城で育った世間知らず、かつ180cm100kgの巨漢レオンシュタインと、仮面はつけているが絶世の美少女ティアナの二人が旅をするお話……なのだが、色々と危なっかしいところばかりである。
ティアナには魔術という戦闘能力もあるのだが、それでもやはり城育ちの坊ちゃんであったレオンに世間の風は冷たく、何度も試練を与えてくる。
そんな二人が出会う人が優しく、二人を助けてくれるのが本当に救いだと思った。
もし、悪心を抱く誰かと出会い、罠にはめられたとすれば、こんな穏やかなお話にはならなかったろうな、と思わされる。
ただ、レオンも人の顔を窺って生きてきた来歴ゆえか、その読心術に光るものを持っている様子。
今後の二人がどういう旅をしていくのか、とても気になるところだ。
お話を表現する文体も穏やかで、一話当たりの文章量も軽く、ポンポンと読み進めてしまう魅力がある。
まだまだお話には秘密や謎が多くあり、そもそもタイトルの『C級人材集めてみたらS級国家ができました』という件が全く回収されていないので、二人の旅が目的地にたどり着き、その後に発展する様子も眺めていきたい。