サービス終了した終焉の世界で新たに作り出させる優しい物語

四章を読了した時点でのレビューになります。

物語の始まりは崩壊する世界。呪いの竜が街に現れ、世界を破壊していきます。古書店の店主だった恒夜も崩壊に巻き込まれ、大切なあの子とも離れ離れに。必ずまた会いに行くという約束を交わしたまま、恒夜はその世界での終わりを迎えます。

衝撃的な場面から始まるこの物語ですが、実はこの終焉はオンラインゲーム、「ケイオスワールド・ファンタジア」が提供するサービスを終了してしまったことを意味しています。
なりきり型オンラインゲームをそこで生活する住人の視点から見ているという点、サービス終了を「世界の終焉」と描く点が面白く、また恒夜の等身大の感情にも共感できるものが多い為に読んで数話で一気に引き込まれてしまいました。

ケイファンの世界は運営という名の神様によってサービス終了させられてしまいましたが、ゲームの中の住人達はまだその世界に存在しています。
そして恒夜はその世界における新しい神様候補を見つける為、大切なあの子との約束を果たす為にもう一度ゲームの世界に戻ることを決意します。

この作品はわかりやすい言葉で言うなら「異世界転移もの」というくくりになるかと思いますが、面白いのは転移しながらも現代との繋がりを持っていることでしょうか。元の世界(現代)にそれほど未練のないアッサリした異世界転移/転生が流行である中、この作品は「果てしない物語」や「ブレイブストーリー」のように「転移前の世界」にも重要な役割を持たせています。現代に残してきた父や祖父母などの大切な家族のことを思いつつも、自分の役割を果たすためにゲームの世界に戻ることを決めた恒夜の迷いや決意は共感できるものも多く、読者は彼を応援せずにはいられません。
ライトノベルでありながら、根幹にあるのは昔ながらのどっしりとしたファンタジーの要素。かと思いきや、キーアイテムとなるスマートフォンなどの現代機器が異世界で活躍したりと現代風にアレンジがされている所が読んでいてワクワクする所です。
グリフォンや魔狼を実際に見て毛並みや生態に驚いたり、異世界で動画を見たり写真を撮ったり。はたまた協力者であるクォームの力でスマートフォンがアップデートして使える機能が増えてくるなどゲーム要素が健在なのも魅力の一つ。
外側から見ればただのゲームの世界。だけど内側から見れば、そこは現代と同じように人が生きる世界で、多種多様な種族が様々な思いを抱きながらそれぞれの生活を送っています。「ファンタジーの世界」と「現代要素」を物凄く面白く融合させているように感じました。
絵本やゲームの向こう側の世界に憧れたことのある人達には刺さる物語だと思います。

彼が約束を果たし、その世界の新しい神様を見つけるまでの物語。
少し泣き虫で、でも心優しい恒夜と一緒に彼が作り出す新しい世界を一緒に見届けてみませんか。

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