やさしい視線に彩られた異世界転移物語

大好きだったオンラインゲームが終了し、喪失感を引きずったまま生活を送る主人公の恒夜。
高校入学直前、彼は不思議な存在の導きによって、ゲーム内の世界へ異世界転移することに!

現実からゲーム世界へは「一方通行」と告げられても彼が転移を選んだのは、ゲーム内で「あの子」とかわした約束を果たすため。
それは、「必ず帰る」というもの。
恒夜は「神様を探して世界を修復する」使命と特殊能力を授けられ、異世界へと旅立ちます。

恒夜にとって“リアル”となったゲーム世界は、既知のようで未知の危険がいっぱい。
どんなモンスターが潜んでいるか今一つわからず、何より世界は一度「サービス終了」という崩壊を迎えており、砂漠が広がるなど環境は過酷。
生活に必要なリソースも限られています。
そのうえ恒夜が授けられている特殊能力は強力ではあるものの万能ではなく、都合が良いものではありません。
恒夜はあくまで等身大の16歳の男の子として、危機を乗り越えていきます。

と、過酷な面を書いてきましたが、この物語の何よりの魅力は、その「等身大」な恒夜の視線を通して見る世界のやさしさとあたたかさです。
恒夜がこの世界で出会うのは、崩壊し、壊れかけた世界で大切な人を失い、支え合って生きる人たち。
対面でのコミュニケーションに苦手意識をもつ恒夜ですが、彼らと向き合い、内面をおしはかり、時に失敗してもまっすぐに向き合っていきます。
そこから見えるのは、16歳の子どもらしい不器用さや戸惑い。彼らのために頑張らねばと奮起するやさしさ。
そんな恒夜だから思わず応援したくなりますし、彼の目を通して見る世界が愛おしくも感じられるのです。
また、とある方法でつながっている現実世界にいる父親との関係も等身大。ときに助言を与える父、父を安心させたいと願う息子。
そんな父子の姿を通しても、恒夜の成長が描かれていきます。

もちろんゲーム世界だけあって、ドラゴン、グリフォン、ダークエルフ、空飛ぶ星クジラなど、わくわくするファンタジー要素も満載。
これから恒夜はどんな人々に出会い、どんなふうに世界を見ていくのか――。
やさしい視線が胸を打つ、異世界転移の冒険譚です。

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