女神に導かれ召喚されてみたものの、異世界に降り立った自分は素のまんま。何のチート能力もなく、そこで何ができるのか――。
んじゃ、大好きなTRPGを広めよう!
というお話です。召喚先のお城で王子・大臣・メイド・兵士長などとTRPGをプレイしていきます。
元々魔物や勇者のいる世界で「パーティを組んで魔王を倒しに行くストーリー」って現実的すぎるのでは?
そう思ったのですけど、普段の私たちもそんな遊びをしていました。人生ゲーム。
まったく知らない物語世界に没入するのはとても楽しい。だけどリアルに近い世界だからこそわかる、得られるものも確かにあるのです。
普段の仕事とはまったく違う役割を演じる中で、現実の自分の可能性や力及ばぬ事を知り、他者の立場に思いを至らせる。ストーリーをクリアするために誰が何を為し、どんなミスがあったのか分析する。
ゲームを通じ、彼らは地位や身分を超えた絆を結びます。TRPGは現実にフィードバックされ、きっとあの世界を良くしていくのでしょう。
元は「異世界でお仕事」というコンセプトで始まったこの作品、TRPGなんて遊びじゃないのかと首を傾げるむきもあるでしょうが、確実に異世界を変え、そしてTRPG作家という新職種を生み出したことは想像に難くありません。
どんな世界に生きようとも、誰もが抱える小さな不安や自信のなさ。そんなものを拾い上げていく作者の細やかな感覚もまた、この作品の特徴のひとつではないかと思います。全体として、優しさにあふれた物語です。
過度な虐待や復讐を扱う作品が流行していますが、創作の中とはいえそのような流れが心に辛い方も多いはず。そのような方々に届いてほしい作品です。
TRPGのルールブックとともに異世界転生(転移)をした主人公。
そこは剣と魔法の世界ながら、召喚された場所は「平和過ぎて退屈な国」で、主人公に期待されているのは、「平和を乱さない程度に愉快なことを引き起こすこと」だった。
そこで主人公は王子やメイド、兵士長などをあつめてTRPGをすることに!
剣と魔法の世界で、「異世界での冒険」を楽しむTRPGが受け入れられるのか?
という読者の不安をよそに、王子をはじめとする面々はどんどんTRPGにハマっていく。
異世界だからって、みんなが冒険できるわけじゃない。
生まれながらの地位があるからこそ、役割が決まっているからこそ、他の人間になりたいこともある。
そんな異世界だからこそ際立つ、「ごっこ遊び」の普遍的な楽しさ。
読んでいて何より楽しいのが、個性豊かなキャラクターによる、TRPGセッション(プレイ)中のわちゃわちゃ感。
ノリノリでロールプレイしたり、フォローしたり、ハプニングを乗り越えたり。
その様子からは、お互いを高め合いながら、自分たちだけの冒険を紡ぎあげる楽しさと喜びが伝わってくる。
スタンダードなシナリオを遊び、コミカルなシナリオを遊び、意外な登場人物がゲームマスター(進行役)に挑戦、そしてキャラクターを作り上げる「フルスクラッチ」へ。
段階を踏みながらどんどん成長して新たな楽しみに出会っていく彼らの姿は、読んでいてワクワクするもの。
TRPGについて知識がなくても(かくいうわたしも知識皆無)、お話を楽しむうちに自然と「TRPGって楽しい!」と思える作品。
「物語の面白さ」が「TRPGの楽しさ」を伝え、「TRPGの普遍的な面白さ」が「物語の魅力」「愛すべきキャラクターたちの魅力」を引き立てる。
そんな相乗効果により夢中で読んでしまう、とにかく楽しい作品。
TRPGとは?私はTRPGをよく知りませんでした。しかしこの作品は小説の中にTRPGを上手く落とし込み、新しい事に触れる人の心、TRPGの魅力を伝えたい主人公の心を上手に描いています。そしてそれが、時にリアルに感じます。自分が好きなことを、知らない人たち伝える時の不安やもどかしさ、そしてそれを受け入れ楽しんでくれた時の喜び、これってTRPGに限らずそういう経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。小説を読みながら過去の自分を追体験できるような作品です。自分が好きが他の人に伝播していくのってうれしいですよね。そんな様子がやさしく描かれている小説です。