胸に迫るやさしさと強さ。崩壊後から積み上げる物語。

5章まで拝見しての感想です。

異世界転移でチートスキル(呪い)を授かる。そんな馴染みある設定から、深みあるファンタジー世界と内面描写に心揺さぶられる良作です。
まずは、ゲームの世界に置いてきてしまった大切なあの子との約束を果たすために。ゆくゆくは、世界を治める神様を見つけるために。主人公の恒夜が、現地で出会う人々と交流しながら奮闘します。

恒夜は16歳になったばかりで、まだまだ揺らぎのある少年です。しかし、物事をしっかり見聞きして自分なりの考えを導き出し、受け取ったアドバイスを行動に移せる、非常に素直で応援したくなる子なのです。
過酷な環境に飛び出した時に、これまでの人生で感じたことや、または出来なかった後悔が。そして他人から受け取ったものが、そっと彼の背中を押してくれます。

印象深かったのが、風樹の里でのお話です。一度甚大な被害を受けた土地で、気候もけしていいとは言えない。けれど、崩壊前にここを守った人がいて、その想いを大切にしたいと願っているから、留まっている。そういう想いの積み重ねが、希望を形作っているのだと痛感しました。

授かったスキルが「執筆」という点も、のめり込める要因でもあります。小説って、物語って、自分を糧に世界を定義するものなのだと。書く人にとっては、我が事のように感じられるのではないでしょうか。

帰り道がないと言われているものの、スマホを通じて父親とやり取りできるのは安心感があります。それがまた寂しくもあるのですが……。現実世界との絡め方や、恒夜がどんな成長を遂げるのか、これからも楽しみです。

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