ミステリーが好き。民俗学が好き。滾るようなアツい展開を求めている。いつもより少しヘビーなものが読みたい。そんな方におすすめです。
主人公は山形を舞台に馳せまわる、霊能探偵の紲(きずな)。
不可思議な事故で家族を失った少女、楪(ゆずりは)にまつわる事件を追ううち、自身の過去とも向き合うことになります。
繋ぐものは血のみにあらず。口寄せ巫女オナカマの末裔として、一人の人間として。彼が選び取るものは――――。
きっとこれは、非常に深い知識と優れた見識を備えた人にしか書けない物語です。読みながら何度も舌を巻きました。
もがきながら手に入れた情報をもとに、伝承・神話・歴史を紐解くヒリついた緊張感は、まさに伝奇ミステリーと言えます。第一部の時点で既に大仕掛けですが、物事が進むごとにさらにその規模は広がります。それでもまとまりがあり、登場人物たちの軽快なやり取りで、重すぎない絶妙なバランスに仕上がっています。
この物語には、主人公に想いを寄せる人物が数多く登場します。よくある女の子がなぜか言い寄ってくる類いではなく、それもそのはずと納得できる魅力が彼には詰まってるのです。
頭の回転速度とユーモアが織りなす、特徴的な話ぶり。皮肉は気遣いの裏返し。放っておくと一人で無理をしそうで、なんとか力になりたいと思わせる。かなりのカッコつけなのですが、その実本当に格好いいのです。惹かれるのはいい人だけとも限りませんが。
メインヒロインの楪ちゃんの成長っぷりにも注目です。私は彼女を見守るような気持ちで読み進めました。
一癖も二癖もある人々。家族同然の人ならざるもの。示唆に富んだ悪役たち……。ここではとても挙げきれません。
山形の土地勘は皆無ですが、地図を片手に読むのもまた乙でした。いつか訪れてみたいですね。
星やレビューがもっとあってもおかしくありません。ぜひ、ご一読くださいませ。
探偵業を営む主人公の日常は、ほのぼのした非日常だった。早朝のトイレでは全国の花子さんたちが会議を開き、自称美青年の三尾の狐が茶を啜り、呪いの人形が配膳し、美貌の神霊的女性が料理の腕を振るう。そして、時々、怪異のネタを持って協力を余儀なくする刑事。そんな主人公の家に、姉を探す女性が転がり込んでくる。どうやらこの案件には、ムカサリ絵馬が関わっているらしい。
ムカサリ絵馬は山形県に伝わるもので、結婚の様子を絵馬に描いて寺に奉納する物をいう。ムカサリ絵馬を捜索すると寺にあったのは、何と女性の顔が描かれた絵馬だった。これは生者を死者にしてしまう禁忌だった。
主人公と女性は絵馬を引き取り、この絵馬を描いた人物を突き止める。絵馬は本来、山形の地方巫女であるオナカマが描くものだったが……。
オナカマの血を引く男性である主人公は、許嫁を失っていた。そして主人公の出身地である場所も、失われたていた。孤独な主人公に女性は惹かれていく。そんな中、絵馬の一件にはこの主人公の過去が関わっていることが判明する。
知識の量がとても多くて、驚きました。
こうした知識に裏打ちされるように物語も複雑で重厚ですが、説明が巧いので、物語にのめり込んでしまいます。
是非、御一読下さい。