斬新なホラーミステリーでした。唯一無二のラストは必見。

当方、夫の仕事の都合で山形に移って久しい者です。
先日とある動画でムカサリ絵馬のことを取り上げていて、そういえばそんなものもあったと調べたところ、作者様のTwitterに行きつき、この作品に出合いました。
携帯小説世代の人間(しかもあまりいい思い出がない笑)ですので、最初は縦スクロールを見て身構えたのです。しかしそんな心配はすぐに拭われ、応援ボタンを押すためにアカウントまで作りました。
以下、いくつか印象的だったことをまとめます。
1.深い知見と考察
本作では、怪異について論理的に体系づけがなされています。そうして怪異の正体に触れるのですが、それによって恐怖が薄れるわけでもない。それどころか怪異の背景に「切なさ」を見出すことで色を付けていく落としどころは流石です。
また舞台である山形知識が豊富です。山形人ですら知らないことばかりでした。仲間であるヨジロウたちにもきちんと山形に因んだバックボーンがあり、ただ怪異の仲間を並べましたという雑さになっていないのがグッドです。
2.物語構成の妙
霊能探偵ものということで、ミステリー要素もある本作。こちらの展開も絶妙です。情報の出し方がスムーズで、ミステリーとしても良質です。
また、ホラーで起伏をつけると「怖いところ」「怖くないところ」という上下になりますが、本作では軽快なユーモアを交えたりすることで飽きを感じさせません。さらには笑いから涙に突き落とすことさえ平気でやってきます。
エンディングも大団円とはいきません。しかしそれでいいんだと思います。むしろこの物語で「元凶を祓ったから全部解決」というようなことをやってしまっては興醒めでしょうね。命とは。生きるとは。考えさせられました。
3.キャラクターの魅力
私は紲のシニカルな感じが大好物です。最近はこういったキャラが少なくなってきたので、上手くジョークを交えられる男が読めて嬉しいです。また彼を取り巻くキャラたちも素敵。ヒロインの楪ちゃんも可愛いし、英さんもいい相棒です。仲間のヨジロウたちはもちろん、喋る機会の少ない紫さんや琴葉さんでさえ、きちんとキャラが立っています。
またセリフが良い。ラストの「重い女」発言などを筆頭に、作者様自身の深さも感じます。頭のいいキャラは頭のいい人にしか書けないという言葉がありますが、深い愛情を持つキャラもまた、深い愛を持つ人にしか書けないと思います。
とても素敵な週末の夜になりました。ありがとうございます。いつか、ピヨ卵やどよまんにて『山形出身の作家』としてお目にかかれる日を心待ちにしております。