【傑作】今も昔も、ヒトの本質は変わらない。それでも『自己』を人は求める

『自分自身に命令することのできない者は、他人に服従することになる。
自分自身に命令できる者は少なくないが、彼らとて自分自身に服従するまでの存在には、そうなれるものではない。』――フリードリヒ・ニーチェ


古代時代に魔法が存在する舞台。
主人公が何を代償としても渇望し続けるのは『誰の代わりでもない、自分という存在の認識』。

現代日本よりも解りやすく、国籍や身分によって人が人を"物"として扱うのが当たり前の時代背景の中で『俺は誰の代わりでも無い』と抗う敗戦国の奴隷青年アキが、価値観の相違や自身のルーツを徐々に知っていく過程の葛藤がとても生々しく、人間臭く描かれているのがまず本作の魅力のひとつです。

そして、本作は同時に群像劇でもあり(私の個人的主観ですが)、それぞれ異なる背景を持った人物達が各々の『納得』を追い求めています。

知りすぎることは不幸なのか?
知らぬまま得た安寧を享受することのほうが生物として安全なのかも知れません。

しかし、それでは生物学的に生命を維持しているだけの哲学的屍人なのではないか……。

思考放棄をせず、己の命を時に危険に晒しても貫かなければ自分で居られない信念を登場人物達は宿しています。

例え全てが自己満足に帰結するのだとしても……主人公を始めとした彼ら彼女らの生き様は、現代を生きる我々にも痛烈に語りかけ、『自我』の在り方を考えさせられます。

本作の登場人物達、そして時代が向かう結末を追っていきたいと強く思わせてくれる重厚な物語です。

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