これは、例えば、『魔王を倒す』というような、ゴールが明示されている冒険譚ではありません。さまざまな人々がそれぞれの価値観、正義感、倫理観、目的意識などの為に行動し、それらが縒り合さって一つの大きなうねりになっていく、言わば、歴史の物語です。
帝政初期のローマを下敷きにした、手を伸ばせば触れられそうなほど実体感のある世界観。個性的で魅力的な登場人物たち。神君と称えられる開祖から三代目の時代という、実際の歴史上の国々においても良くも悪くも節目となった時期に、自己の確立を模索する少年は、謎だらけの箱庭の謎だらけの少年は、一癖も二癖もある野心家のお姫様は、何も考えていない放蕩無頼のようでいて実はそうでもなく芯に強いものを秘めていそうな青年は、さて何を選び、どうなっていくのか。
現時点で76話までが公開されていますが、おそらくはまだ助走の段階、彼らの飛翔はこれからが本番なのだろうと思うと、わくわくしてきます。歴史や文化、群像劇がお好きな方は、是非。
古代ローマの世界観をベースに、魔法や、エルフを思わせる民族も登場するファンタジー作品です。
この作品において私が特に魅力的だと感じたのは、やはり世界観ですね。
史実上の世界を下地としつつ、高い文章力によって独自の世界がしっかりと創造されています。この世界の文化や価値観が詳細に描かれ、料理や空気の匂いまでもが伝わってくるほどです。
現実の窮屈な現代社会とは違い、粗暴ながらも大胆でエネルギッシュな世界が輝いており、良い意味での懐古的な癒しを感じることができます。
また、この作品は大まかに三つの視点による群像劇として紡がれており、どの視点にも主人公として物語を引っ張る人物が存在するのも特徴です。
かれら主人公以外にも魅力的なキャラクタが多数居り、読み進めるごとに好きなキャラが増えてゆきます。
ちなみに、私のお気に入りは「フロールフ」と「メルヴィル」という人物ですね。両者とも非常に癖のある人物なのですが、彼らの内面や心情を知るにつれて、どんどん好きになりました。
実在の歴史がモチーフと聞くと少々構えがちですが、上記のような魅力的な要素もあり、とても読みやすく描かれております。間違いなく名作です。
ぜひ多くの皆様に、この素晴らしい世界を訪れて頂きたいですね。オススメです。
国の終わりに 斜陽の例え
夜明けの為に 日は沈む
栄華極めし 彼の大国も
久しからずや 衰えて
宿命(さだめ)を背負う その星たちは
血に導かれ 動き出す
チート、転生、といった要素は無しに、真っ向からファンタジーを描いた重厚な作品です。
いわゆる“よくある異世界”ではなく、古代ローマ風の帝国が舞台となっており、
独自の世界観をもった中身の濃い設定は、読む者を惹きつける魅力に溢れています!
剣と魔法の冒険ファンタジーではなく、運命に翻弄される者たちの群像劇……というと難しく感じる方も居られるかもしれませんが、そこは心配ありません。
緻密に描かれた世界描写は、丁寧な文体でスラスラと読めるので、ストレスを感じることなく、どっぷりとこの世界にハマれるかと思います!
登場人物の心象描写に長けており、多くのキャラが出てくるにも関わらず、各々実に感情移入しやすかったです!
ガッツリ読んで、しっかり満足できる、肉厚なこの傑作を是非とも味わっていただきたい!
★がもっと付いていいと思うはずです!
最新話まで拝読してのレビューです。
とにかく手に汗握るという表現が相応しい重厚なファンタジーです。
純然たる異世界ファンタジーではありません。
古代ローマ帝国の世界観がその下敷きとなって本作を支えています。では、学校で学んであろうローマ帝国のことを知っていなければ楽しめないのか?
そんなことは全くありません。むしろ知らない方が本作の世界にどっぷりと浸って楽しめる気がします。
もちろん、知っていれば知っているなりの楽しみ方もあります。
また冒頭には、本編とは別に「最新話までの登場人物」「現在公開可能な世界観設定」が親切にも用意されているため、とても分かりやすいです。
本作には魔法の要素も出てきますが、どちらかといえばファンタジー軍記もの、登場人物が織り成す群像劇とも言えるでしょう。
読み応え十分、さらに登場するキャラたちが悩み、考え、行動する。その先に何が待ち受けているのか。タイトルもこれまた意味深です。
作品の質に対して★の数が圧倒的に少ないです。この手の作品は埋もれがちで、それが何とも勿体なさすぎます。
ぜひこの機会に一読をおすすめします。間違いなく秀作ですよ。
『自分自身に命令することのできない者は、他人に服従することになる。
自分自身に命令できる者は少なくないが、彼らとて自分自身に服従するまでの存在には、そうなれるものではない。』――フリードリヒ・ニーチェ
古代時代に魔法が存在する舞台。
主人公が何を代償としても渇望し続けるのは『誰の代わりでもない、自分という存在の認識』。
現代日本よりも解りやすく、国籍や身分によって人が人を"物"として扱うのが当たり前の時代背景の中で『俺は誰の代わりでも無い』と抗う敗戦国の奴隷青年アキが、価値観の相違や自身のルーツを徐々に知っていく過程の葛藤がとても生々しく、人間臭く描かれているのがまず本作の魅力のひとつです。
そして、本作は同時に群像劇でもあり(私の個人的主観ですが)、それぞれ異なる背景を持った人物達が各々の『納得』を追い求めています。
知りすぎることは不幸なのか?
知らぬまま得た安寧を享受することのほうが生物として安全なのかも知れません。
しかし、それでは生物学的に生命を維持しているだけの哲学的屍人なのではないか……。
思考放棄をせず、己の命を時に危険に晒しても貫かなければ自分で居られない信念を登場人物達は宿しています。
例え全てが自己満足に帰結するのだとしても……主人公を始めとした彼ら彼女らの生き様は、現代を生きる我々にも痛烈に語りかけ、『自我』の在り方を考えさせられます。
本作の登場人物達、そして時代が向かう結末を追っていきたいと強く思わせてくれる重厚な物語です。
一番にこのことをお伝えしたい! 想像以上にローマ帝国です。
街中の様子、人々の生活様式、微に入り細に入り描かれる世界から浮かび上がるのは正しくローマ帝国。しっかりとした文体で書かれた描写からは、街中の香りまでしてきそうな感じがします。
そんなローマ世界を下地にした大国ローランを舞台に、青い瞳の少年・アクィルスを主軸とした重厚な群像劇が繰り広げられます。
レビュー時点で最新話まで読んでいますが、点と点だった登場人物達が出会い、絡まり合っていくのが本当に面白い。これぞ群像劇の醍醐味!
ローマ帝国好きな方はもちろん、そうでない方もじっくりと楽しめる骨太な作品です。