天使が囁く

秋待諷月

天使が囁く

 エンジェルナンバー、と言うらしい。


 朝一番、充電しそびれたスマホの画面を呼び出すなり目に入ったのは、残量77%のバッテリー表示。

 牛乳パックのバーコードの中には7が四つ並んでいて、マーマレードの蓋に印字された賞味期限は7月7日。

 トーストを口に運びながら何気なく雑誌をめくると、たまたま開いた77ページの占いコーナーに「エンジェルナンバー」についてのスピリチュアルな記事が組まれていた。


 偶然目に付いた妙に気になる数字のことで、「天使からのメッセージが込められている」そうだ。

 数字ごとに意味があり、7が暗示するものは「幸せの前兆」。

 悪い気はしない。ぱっとしない毎日に変化が訪れるならば、「エンジェルさん、どうぞこちらへお越しください」だ。


 足取りも軽く自宅マンションをあとにする。駅に着いたところでスマホを見れば、歩数が777歩に達したところだ。

 車体番号下四桁が7777の電車で会社の最寄り駅に向かい、コンビニで手に取ったアセロラドリンクは77キロカロリー。レジで伝えられた会計額は777円だった。


 天使が私に寄り添ってくれているようで、気分がいい。コンビニを出ると空は清々しい晴天で、いよいよ心が浮き立ってくる。

 公園にでも寄り道していこうか。会社の始業時刻である九時までは、まだ四十分以上あるはずだ。

 横断歩道を渡りながらスマホで時間を確認すると、またしても7のゾロ目と邂逅する。


 7:77


「――え?」

 目を丸くし、立ち止まった私の横から、けたたましいクラクションが襲いかかってきた。

 緩慢な動きで首を回した私の目に、7777のナンバープレートを掲げた大型トラックが飛び込んでくる。




 気付けば、私は仰向けになって青空を見上げていた。頭の下でじわりと温かいものが広がっていく。

 手足を道路の上に投げ出し、指一本も動かせない私の耳に、無邪気な声が囁いた。




「むかえにきたよ」




 Fin.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使が囁く 秋待諷月 @akimachi_f

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ